これから在宅の介護サービスを利用しようと思ったとき、まずは「どのようなサービスが介護を受ける人(以下、利用者)にとって必要なのか」を検討します。
一般的に利用者を介護する家族(以下、家族)は、お住いの地域の役所やケアマネージャーが所属している「居宅介護支援事業所」に介護の相談をすることになります。ただ、介護サービスを利用する際には、そういったところに相談をする前に利用者の「生活習慣」や「価値観」、また「現在の心身の状況」を確認することが大切です。
そして、それらの情報を基に利用者から「これからの生活に対しての希望」を聞いておく必要があります。
なぜ、役所やケアマネージャーに相談をする前に、家族がこのようなことを確認しておかなければならないのでしょうか? それは、こうしたことを怠ることで、利用者にとって必要な介護サービスが導入できない可能性があるからです。
利用者の多くは、他人(家族以外)から介護の支援を受けることに抵抗があります。なぜなら「介護サービスを使う」ということは、自分(利用者)の老いを認める行為だからです。そのため、まずは利用者と家族がしっかりと向き合って介護のことについて話し合うことが大切です。
今回は、在宅の介護サービスを導入する前に「利用者の希望を導き出すための3つの過程(手順)」について解説します。
利用者の「生活習慣」や「価値観」を確認する
1つ目の過程は利用者の「生活習慣」や「価値観」を確認することです。
そのことについて知るためには、ご本人が「どこで生まれ、どのように育ってきたのか?」また、「学校を卒業してから現在に至るまで、どのように過ごしてきたのか?」といった情報を確認しておくことが大切です。
ご家族の中には、「何十年も一緒に暮らしている親(利用者)のことなのだから、何でもわかっているよ」と思われる方もいるでしょう。しかし実際には、利用者に介護サービスの利用を促していくためには、家族の方が想像している以上に「生活習慣」や「価値観」を正確に把握しておく必要があります。
なぜなら、介護サービスの利用の促し方を間違ってしまうと、利用者さんにサービスの利用を拒否されてしまうからです。
例えば、子供のころから人見知りの性格で、趣味が全くなかった高齢者がいたと仮定します。このような方にカラオケや運動が活発なデイサービス(日帰りの通所施設)を勧めても、なかなか利用には結びつきません。
その他にも、戦時中にご両親を亡くし、子どもの頃はずっと親戚のお世話になっていたため、「なるべく周りに迷惑をかけないように生活してきた」という高齢者がいたとしましょう。
このような生活をしてきた方には、たとえ家事ができなくなったとしても、「ホームヘルパー(他人)のお世話にはなりたくない」と考える人は多いです。
こうしたことから、介護のサービスを利用者に促すときは、その人の「生活習慣」や「価値観」を考慮しながら説明していかなければなりません。そうすることができれば、利用者もあなたが提案した介護サービスを気持ちよく受け入れてくれるでしょう。
利用者のできない事、家族のできる事を確認する
2つ目の過程は「利用者のできない事」と「家族のできる事」を確認することです。家族だけでの支援に限界が生じて、「介護のサービスが必要」と感じたとき、具体的に「どのような支援が利用者にとって必要なのか」を考えなければなりません。
そのためには、まず利用者が「現在できていない事」を整理しておく必要があります。
利用者のできていない事を整理するための確認事項は、大きく分けて「日常生活における動作(入浴や排せつなど)」と「暮らしを支える生活の動作(調理や掃除など)」の2つになります。この2つの動作を確認することで、どういった支援が利用者にとって必要なのかが明確になります。
ただし、この支援の中には、家族が行えるものもあります。そこで、次に確認するのは家族のできる事です。
例えば、利用者と家族が一緒に暮らしているのであれば、自宅で家族が入浴の介助をすることは可能です。その一方で、利用者と家族が離れて暮らしている場合はどうでしょうか? なんとか時間をかけて通えたとしても、入浴のたびにずっと通い続けるのは、とても難しいことです。
こういったときは、デイサービスや訪問入浴サービスを導入することで、そうした問題を解消することができます。
このように、利用者のできない事を整理したあとに、家族のできる事を確認することで、必要な介護サービスをスムーズに検討できるようになります。
利用者の希望を確認する
3つ目の過程は利用者の希望を確認することです。介護サービスの利用を検討したとき、家族が最も頭を悩ませるのが、「利用者の介護サービス導入の拒否」です。
なぜ、利用者は介護サービスを拒否してしまうのでしょうか?
それは、利用者の希望を確認していない状況で家族が勝手に介護の話を進めようとするからです。家族も利用者のためと思って、介護サービスの導入を検討するのですが、実際には利用者と家族の希望が一致していないのです。
例えば、家族が「このまま元気でいてほしい」と願って、リハビリのサービスを検討していたとします。そうした希望に対して、「もう歳なんだから家でゆっくりさせてくれ」と考えている利用者は多いです。
利用者や家族の希望については、人それぞれ違います。そのため、利用者の年齢や心身の状況だけで判断することはできません。
そのため、利用者の希望を確認するためには、家族が直接ご本人と話し合うことが大切です。そして、ここで重要なポイントは、家族の希望を先に利用者には伝えてはならないということです。
なぜなら、先に家族の希望を伝えた時点で「介護サービスを家族に押し付けられている」と思う利用者がいるからです。
そうならないためにも、まずは「このまま安心して在宅生活を続けていくためにはどうするべきか」を利用者と家族で話し合うことが大切です。そうすることで、「利用者がどのような生活を望んでいるのか」を本音で話してくれます。その本音を聞いてから家族の希望を伝えていくと、利用する介護サービスの選択を滞りなく決めることができるようになります。
多くの場合、家族が介護サービスの利用を検討し始めたときは、利用者も「今のままではいけない」と薄々感じています。ただ、利用者が自分の老いと向き合っていくのは、とても難しいことです。
こうした利用者の不安な感情を、「安心」という気持ちに変えていくことが家族の役割になります。こういった過程を経ていくことで、お互いの信頼関係がより深まります。
以上、3つの過程を経ていくことで「利用者にとって必要な介護サービス」がわかってくるようになります。
介護の難しさは「いつまで」という期間を誰も決められないことです。そのため、はじめにしっかりと利用者の希望を確認することで、利用者と家族の負担が軽減できる在宅の介護サービスを選ぶことができます。