これから介護保険のサービスを利用しようと考えたとき、利用者(介護サービスを使う人)、もしくは家族(利用者を介護する家族)がはじめに行わなければならないのは、要介護認定を受けるための申請です。
要介護認定の申請については、お住まいの市区町村の窓口に行って「要介護認定を受けたいので申請の手続きをお願いします」と尋ねてください。そうすれば、窓口の担当者が申請書類の書き方を教えてくれますので、手続き上で利用者や家族がつまずくことはありません。
しかし、要介護認定の申請後に行われる「市区町村の職員からの聞き取り調査(認定調査)」や「主治医意見書(心身の状況確認)」の内容により、介護の認定結果が大きく変わることをあなたはご存知でしょうか?
そして、判定された要介護認定によっては、利用者や家族が利用したいと思っている介護サービスが受けられない可能性もあります。
そうしたことを避けるためにも、介護保険の申請を行う場合には、適切な手順に従って要介護認定を受けることが大切です。今回は「的確な要介護認定を受けるための申請方法(3つのステップ)」について解説します。
的確な要介護認定がおりなかったために必要なサービスが受けられない例
介護保険のサービスを利用する際に、判定された要介護認定によって使うことができるサービスが異なります。そのため、場合によっては取り入れようと考えていたサービスを使うことができないこともあります。
例えば、介護用の電動ベッド(以下、ベッド)をレンタルしようと思った家族が、介護の申請をするケースで考えてみましょう。介護保険でベッドをレンタルするためには、原則として要介護2以上の認定が必要になります。
そのため、要介護1以下の認定がおりた場合は、介護保険適用のベッドを利用者は借りることができません。
厳密に言えば、ベッドが借りられないわけではありません。ただ、全額自己負担で利用者はベッドをレンタルすることになります。
※ 介護保険適用となれば、実際にかかる費用の1割を負担(収入の多い方は2割を負担)するだけでベッドを借りることができます。
介護保険のサービスを使う人の多くは「利用者にとって必要なサービス」だと思っているから、介護サービスの利用を申し込みます。
そのため、必要な介護サービスが利用できるよう、適切な手順に従って要介護認定を受けることが大切です。
主治医を決めてから市区町村の介護保険の窓口に行く
1つ目のステップは、お住まいの市区町村の介護申請を担当している窓口へ行くことです。
この窓口には、介護申請をするための書類も置いてあります。そのため、あなた(利用者や家族)が申請窓口に持っていくのは、利用者(介護サービスを使う人)の「介護保険の被保険者証」のみとなります。
ただし、この被保険者証を紛失してしまった方、もしくは40歳~64歳の方で被保険者証をお持ちでない方については、「医療保険の被保険者証」や「車の運転免許証」を必ずご持参ください。
要介護認定の申請書については、窓口の方が記入方法を教えてくれますので、特別に心配することはありません。しかし、申請書を滞りなく記入するためには、利用者に関する以下の情報を事前に整理しておくことが大切です。
・要介護状態の原因となった疾患名(認知症や脳梗塞など)
・認定調査に関する希望(認定調査員が利用者宅に訪問する日時の希望など)
・主治医とその医師が所属する医療機関名(主治医の氏名や医療機関の所在地及び連絡先など)
この3つの情報の中で、最も重要なのが主治医を決めることです。
なぜなら、主治医が要介護認定のために記入する「主治医意見書(以下、意見書)」が認定結果を大きく左右するからです。実際には、意見書をお願いする主治医は、現在通っている医療機関の先生にする人が多いです。
例えば、脳梗塞を発症して入院中の方であれば、手術をしてくれた医師にお願いすることになるでしょう。
その一方で、認知症を患っている方であれば、「ものわすれ外来」や「精神科」の医師にお願いするケースもあります。複数の医療機関に受診しているため、「誰に主治医をお願いしていいかわからない……」と悩まれた方は、要介護状態の原因となった疾患を診てくださっている医師にお願いするとよいでしょう。
主治医に「介護保険の申請」と「自宅での利用者の様子」を伝える
2つ目のステップは、主治医意見書の記入をお願いする医師に「介護保険の申請」と「自宅での利用者の様子」を伝えることです。
定期的に主治医が所属する医療機関への受診がある場合は、介護保険の申請をする前の受診時に伝えておいてもかまいません。それでは、なぜ主治医に「介護保険の申請したこと」をわざわざ伝える必要があるのでしょうか?
それは、早めの段階で主治医に伝えておくことにより、「主治医意見書」を素早く書いてもらえるからです。
介護保険の申請をすると、市区町村の窓口の担当者は、申請書に記載された主治医に意見書の作成を依頼します。そのため、利用者や家族は主治医に「介護保険の申請をしたことを必ず伝えなければならない」というわけではありません。
しかし、主治医意見書(以下、意見書)の書類が市区町村の窓口から届く前に主治医に伝えるとどうなるでしょうか? 利用者(患者)の介護申請を知った医師は、頭の中で「どのようなことを意見書に記入するか」を事前に考えるようになります。
その結果、医師はより正確な情報を意見書に記入することができます。
また、主治医に「自宅での利用者の様子」を伝えておくことも、的確な要介護認定を受けるために有効です。なぜなら、要介護認定には、「利用者が自宅でどのように過ごしているのか」という情報が重要であるからです。
要介護認定は、現在かかっている病気の症状だけで判定されるわけではありません。利用者が家族に対して「介護の手間をどれだけかけているのか」という情報も判定を分けるポイントになります。
例えば、認知症による症状が同程度の人であっても、夜中に徘徊するため常に見守りが必要な人と、そうでない人では、認定される要介護度は大きく異なります。
そのため、一見すると関係ないような、「認知症の影響で冷蔵庫の食材の管理ができていない(食材を腐らせている)」といったことなども、主治医にとっては必要な情報です。利用者の介護申請を知った主治医の中には、こうした情報を利用者や家族に直接確認してくれる人もいるでしょう。
しかし、毎日の診察で忙しい医師は、自分の知っている情報(病気の症状など)だけで意見書を記入することもあります。
そうならないためにも、利用者を支えている家族が「利用者が日常生活でできていない事」や「家族が行っている介護(介護の手間)」などの情報を、しっかりと主治医へ伝えるようにしましょう。
認定調査では利用者の家族が必ず立ち会うようにする
3つ目のステップは、初めての認定調査では利用者の家族が立ち会うということです。
利用者を支える家族の中には、平日の昼間は仕事に出ているため、「認定調査の時間に立ち会えない」という人もいます。しかし、認定調査では仕事の休みを取ってでも、必ず家族が立ち会うようにしてください。
なぜなら、多くの利用者は、認定調査員(以下、調査員)の質問に対して、適切な受け答えができないからです。
利用者の多くは、自身の心身の状況に関する調査員の質問に対して、「自分(利用者)の体調が一番良いときの状況(もしくは、理想の状況)」を伝える傾向にあります。また、認知症の影響で、実際は一人で生活するのが困難な状況でも、「私(利用者)は日常生活では何も困っていない」と調査員に答える場合もあります。
そうすると、調査員は正しくない情報を持ち帰ることになるので、的確な要介護認定がおりない可能性が高くなります。
こうしたことを避けるためにも、認定調査では実際に介護をしている家族が立ち会い、正確な情報を調査員に伝える必要があります。
そうはいっても、いくら家族であっても、利用者を目の前にして「お母さん(利用者)は、家のことは何もできていないでしょ!!」などとは言いにくいものです。
こうしたときは、家族が「利用者が日常生活でできていない事」や「家族が行っている介護(介護の手間)」などをメモに記し、調査員に手渡ししてください。そうすることで、正確な情報を調査員が持ち帰ることができます。
以上、3つのステップを経ることで、利用者の正確な情報が滞りなく市区町村に伝わります。
要介護認定には、きちんとした算定基準があって、7段階(要支援1,2、要介護1~5)に分かれています。そのため、的確な認定がおりれば、利用者や家族にとって必要な介護サービスが受けられる仕組みになっています。
そして、もし仮に不適切な認定がおりた場合でも、利用者や家族は再び介護申請を行うことはできます。
しかし再申請をした場合には、認定がおりるまで通常の倍の時間(3~4ヵ月ほど)を必要とします。そうならないためにも、この3つのステップの内容を踏まえながら介護の申請を行いましょう。
そうすることで、1回で適切な要介護認定を受けることができるようになります。