入院していた親が退院して自宅へ戻る際には、介護用ベッドや車椅子が必要になるケースもあります。また、加齢に伴って、親の心身状態が変化した時にもこれらは欠かせないものです。
それらの福祉用具が必要になった場合、もちろん購入することもできます。ただ、介護保険制度を活用して「福祉用具貸与(レンタル)」サービスを利用することで、必要な用具を揃えることもできます。
家族にとって、福祉用具の「貸与(レンタル)」と「購入」どちらがお得なのでしょうか。
例えば、車椅子1台を購入すると2~20万円程度かかります。一方で、車椅子をレンタルした場合、1ヵ月5000円程度ですが、介護保険を使って1割負担になるので約500円ですみます。(2割の方は1000円)
つまり、500円×12ヶ月×3年で1万8000円になるので、3年以上車椅子を継続して使う人は購入した方がお得な計算になるのです。
しかし、親の心身状態が変化することなどを考えると貸与(レンタル)を利用した方が実はお得になります。
なぜなら、車椅子も用途に合わせて種類がたくさんあり、使われる方の心身状態や介助する方の介護力によって選ぶ必要があるからです。そのため、状態が変化するたびに買い替えるよりも、その時々の状況に合わせてレンタルする方が経済的と言えます。
そこで今回は「家族が知っておきたい福祉用具貸与サービスの知識」についてお伝えします。
福祉用具貸与(ふくしようぐたいよ)とは
介護保険制度における、介護サービスは「施設サービス」と「居宅サービス」「地域密着型サービス」の3つに大きく分けることができます。そして、福祉用具貸与は居宅サービスの一つとして位置づけられています。
福祉用具貸与とは、自宅で自立した生活を送るために必要となる福祉用具を1割負担(2割負担の方もいます)の費用で貸し出すサービスです。
対象者が限定されている
介護サービスの一つなので、要介護認定を受けている方が対象です。しかし、要支援1.2の方や要介護1の場合は、「介護の必要性が軽度である」という考えから利用できない品目があります。
もちろん、生活状況や本人の状態によっては、例外が認められています。この例外に当てはまるには、要介護度を決める際に行われる「訪問調査」の内容が大きく関係しています。
例えば車椅子のケースでは、訪問調査項目の「歩行」について「(歩行)できない」と記された場合には例外と認められるのです。また、「特殊寝台(介護用ベット)」も訪問調査項目の「起き上がり」に「(起き上がり)できない」と記入されていることが条件になります。
そもそも、福祉用具貸与は居宅サービスになるので、親が居宅サービスを利用していることが大前提です。
例えば、親が入院していたり施設に入所していたりする場合には、このサービスは利用することができません。
ここで注意したいことは、「施設サービス」と「居宅サービス」の認識が正しくできているかどうかです。ここでいう施設サービスとは、「介護老人福祉施設(特養)」「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」「特定施設入居者生活介護(介護付有料老人ホーム)」を指します。
一般的によく老人ホームと呼ばれる「住宅型有料老人ホーム」や「サービス付高齢者向け住宅」で介護サービスを利用する場合は居宅サービスとして扱われます。
このように、福祉用具貸与を利用するには、介護認定を受けていること以外にも細かい条件があります。家族だけで判断できない場合は、担当のケアマネジャ―や地域包括支援センターに相談して確認することが必要です。
対象品目が決められている
さらに、必要な福祉用具がすべてレンタルできるというわけではありません。福祉用具貸与では、レンタルできる対象品目も決められています。
例えば、車椅子や特殊寝台(介護用ベッド)、床ずれ防止用具、スロープ、歩行器、移動用リフトなどです。主に、移動や排泄、入浴に関わる13種類が対象品目となっています。
また、手すりやスロープに関しては、壁や床に取り付けるような工事が必要なものは対象にはなりません。据え置きタイプのもののみが対象となります。
このように、介護サービスを利用して福祉用具貸与(レンタル)する場合は、「親が対象者であるかどうか?」「その福祉用具が貸与の対象品目に入っているか?」を確認する必要があります。
以下に、対象品目と対象者をまとめます。
対象品目 | 要支援1~ 要介護1 |
要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 |
車椅子 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
車椅子付属品 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
床ずれ防止用具 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
体位変換器 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
特殊寝台 (介護用 |
× | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
特殊寝台 付属品 *1 |
× | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
手すり *2 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
歩行器 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
スロープ *2 |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
歩行補助杖(多点つえ) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
認知症老人徘徊感知機器 | × | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
自動排泄処理装置 | × | × | × | 〇 | 〇 |
移動リフト *3 |
× | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
*1 サイドレール、マットレス、ベッド用手すり、スライディングボード
*2 工事不要なものに限る
*3 バスリフト・段差解消リフトなど
貸与(レンタル)の流れ
福祉用具貸与は、居宅サービスの一つであるため、ケアプラン(居宅介護計画書)の中に福祉用具レンタルが明記されていなければいけません。
またレンタルする際にも、都道府県や市から指定を受けた「特定福祉用具貸与事業所」からのものだけが対象となります。そのため、ほとんどの方が担当のケアマネジャーを通して、事業所を紹介してもらい福祉用具をレンタルしているのが現状です。
例えば、親の外出に車椅子が必要になってきたと感じた場合は、親の担当ケアマネジャーにその旨を伝えます。そこで、担当ケアマネジャーから事業所を紹介され、カタログなどからレンタルする物を検討して利用することになります。
家族が利用する特定福祉用具貸与事業所を決めることもできますが、主に連絡を取り合うのは担当ケアマネジャーですので、上手く連携を図れる事業所を選ぶ必要があります。
貸与(レンタル)料金
介護サービスは、介護度によって1ヵ月に使えるサービスの量が決まっています。これを、区分支給限度基準額と言います。この限度基準額は、「単位」で表わされています。例えば、要介護1の場合では1ヵ月16692単位分のサービスを利用することができます。
福祉用具貸与も居宅サービスの一つであるため、親の要介護度に合わせて設定されている区分支給限度基準額内に含まれます。
また、レンタル料金に関しては、事業所や種類によって若干差がありますので、各事業所に確認が必要です。
例えば、車椅子を1ヵ月レンタルすると約500単位になります。500単位を全額自己負担で支払うとしたら約5000円です。しかし、介護保険を利用すると、その内の1割である約500円の支払いとなるのです。(介護保険2割負担の方は約1000円)
このように、介護サービスを利用して福祉用具貸与する場合は、「ケアプランに明記されていること」「区分支給限度基準額内に収まること」が必要になります。
もし、区分支給限度基準額内に収まらなかったり、親の介護度では対象外だったりした場合でも、全額自己負担であればレンタルすることができるケースもあります。そのため、担当のケアマネジャーや福祉用具に関する知識のある人に相談することをお勧めします。
以下に、主な福祉用具貸与料金をまとめます。
事業所・種類によって多少の差がありますので、あくまでも目安です。
車椅子 300~2500円程度 特殊寝台(介護用ベット) 700~1500円程度(マットレスは含んでいません) マットレス 500~1000円程度 床ずれ防止用具 300~1500円程度 歩行器 100~800円程度 手すり 100~1000円程度 スロープ 100~1200円程度 杖(多点杖) 100~300円程度 認知症老人徘徊感知機器 200~1200円程度 移動用リフト 1000~3000円程度 自動排泄処理装置 600~1000円程度*一割負担で計算しています。 *特殊な福祉用具については料金が異なりますので、直接事業所にお問い合せ下さい。 |
福祉用具を貸与するメリット・デメリット
福祉用具をレンタルするというと、「人が使ったものを使用するなんて……」と思われる方もいるのではないでしょうか。
介護保険が始まったばかりの頃は、きちんと消毒もせずに使いまわされていたことがありました。しかし、現在はそのような悪徳な事業所を取り締まるために、都道府県や市から指定を受けなければ「特定福祉用具貸与事業所」として名乗れないようになっています。
そのため、現在は事業所が商品を洗浄・消毒・点検・補修して繰り返しレンタルしています。もし、不具合や不備があると感じた場合は、事業所またはケアマネジャーに相談するとすぐに対応してもらえる仕組みになっているのです。
デメリット
では、レンタルすることで起こりうるデメリットとはなんでしょうか?
それは、居宅サービスであるがゆえに親が入院したり施設入所したりした時には、利用することができないということです。
例えば、親が、歩行が難しくなって車椅子が必要な状態だった場合、自宅にいる間は車椅子をレンタルすることができます。しかし、施設に入所した際にはレンタルができないため、車椅子の購入が必要になります。
このように、長年使うことや住み替えを考えると購入しておく方が経済的にはいいケースもあります。
メリット
一方、レンタルすることでのメリットは、「親の状態に合わせて福祉用具を何度でも替えられる」「修理などのメンテナンスが手厚い」という2点です。
例えば、車椅子ひとつでも「自走式」「介助用」など数種類あるのです。また、介助用の中にも「アーム(ひじ置き部分)が跳ね上げできる肘はね上げ式」や「フットサポート(足を乗せる部分)が取り外せる脚部スイングアウト式」「背部の角度を調整できるリクライニング式」があります。
福祉用具を選ぶときには、使用する本人の使いやすさが大切です。しかし、介助が必要な場合には介助する家族にとっても使いやすくなければいけません。
さらに、親の心身状態も少しずつ変化していきます。その状況の変化に合わせて何度も買い替えると経済的にも負担になります。福祉用具を購入するのではなく、レンタルすることでいつでも種類を変えてもらうことができるのです。
また、特定福祉用具貸与事業所には「福祉用具専門相談員」が配置されているため、いつでもアドバイスをもらうことができます。
このように、福祉用具を選ぶ時には現在の親の状態やこれからの過ごし方も見据えて計画的に考えることが必要になります。
そして、親が加齢に伴って弱っていくと考えた時、すぐに福祉用具を購入するのではなくレンタルすることをお薦めします。さまざまな物を試してみた後に購入しても遅くはありません。
そして、福祉用具を貸与する場合も購入する際にも、信頼して相談できるケアマネジャーや福祉用具事業所を見つけることがもっとも重要です。
今回の「家族が知っておきたい福祉用具貸与サービスの知識」を参考に、ぜひ信頼できる方に相談しながら親に合った福祉用具選びをしてみて下さい。