家族も知っておきたいヘルパーが「できること」「できないこと」

住み慣れた家で、介護を必要とする親(または配偶者)を支えていくためには、訪問介護は欠かせないサービスです。

訪問介護とは、訪問介護員(以下、ヘルパー)が自宅に直接行き、利用者が日常生活を送る上で必要な介助を行います。具体的には、掃除や調理などを行う「生活援助」と排泄介助や着替えなどを介助する「身体介護」があります。

介護が必要になった親の一人暮らしを支える場合や、デイサービスなど自宅の外にでて介護を受けることを拒む親には欠かせない介護サービスの一つです。

しかし、実際にサービスを利用された方からは「ヘルパーさんは融通がきかない」「お願いしたことをしてくれない」という声が挙がることもあります。

ところが、このような声のほとんどが、ヘルパーの融通がきかないのではなくて「ヘルパーができないことをお願いしている」というケースであることをあなたはご存じでしょうか?

介護保険法で記されている訪問介護の基本方針には、「要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した生活を営むことができるよう、入浴、排泄、食事の介護その他の生活全般にわたる援助を行うものでなければならない」とあります。

基本方針の一文に「その有する能力に応じ」とあるように、親(または配偶者)の状態に合わせて必要なサービスを過不足なく提供するように決められているのです。また、サービス内容についても介護保険制度の中で細かく制限されています。

さらに、ヘルパーが実際に行うサービスは、事前に作成される「ケアプラン(居宅介護計画書)」に記載されていることが原則です。

このように、ヘルパーが行うサービスはさまざまな制約がある中で提供されています。そのため、訪問介護を利用する人や周りの家族がきちんとサービス内容を理解した上で要望を出さなければ、ヘルパーとの信頼関係も崩れてしまいます。

そこで今回は、「家族も知っておきたいヘルパーができること・できないこと」についてお伝えします。

訪問介護サービスの基本

まずは、訪問介護サービスについて基本的な仕組みを確認しておきます。

訪問介護は、在宅サービスの一つに位置づけられています。具体的には訪問介護員(以下、ヘルパー)が自宅を訪問してサービスを提供する仕組みになっています。また外出の介助(通院等)を除いて、利用者本人が自宅にいる時に行わなければなりません。

そのため、「利用者本人が出かけている間に訪問して部屋の掃除をする」というようなことはできません。

また、訪問介護サービスを利用するためには、その内容を記した「ケアプラン(居宅介護計画書)」を作成する必要があります。このケアプランは、本人や家族が作成することもできますが、手続き等がわかりにくいこともあって、ほとんどの人が居宅支援事業所に所属するケアマネジャー(介護支援専門員)に依頼しています。

もし、親(または配偶者)が要支援の場合には、居宅支援事業所ではなく「地域包括支援センター」のケアマネジャーが担当する決まりになっているため、「要支援なのか?」「要介護なのか?」を確認することが必要です。

基本のサービス内容

訪問介護サービスは、「身体介護」と「生活援助」の2つに分けることができます。

身体介護

身体介護は主に、利用者の体に直接触れて行う介助のことを指します。

具体的には、「食事の介助」や「清拭や入浴の介助」「排泄(はいせつ)の介助」「起床・就寝の介助」「着替えの介助や体位交換」「移動などの生活動作の介助」「服薬介助」「特別な医療的ケア(喀痰吸引、経管栄養)」「通院・外出介助」というようなサービスがあります。

生活援助

一方、生活援助は利用者の日常生活をお手伝いするものです。

具体的には、「掃除」や「洗濯」「ベットメイク」「衣服の整理」「一般的な食事の準備や調理」「生活必需品の買い物」「薬の受け取り」などのサービスを指します。

では、実際に訪問介護はどのような場面で利用されているのでしょうか。

たとえば、一人暮らしの親が認知症を患っているケースでは、「食事をとっているか心配」「薬をきちんと飲んだか不安」「デイサービスに行く準備が難しくなった」という問題が出てきます。そのような場合には、ヘルパーによる身体介護と生活援助を合わせて利用します。

具体的には、デイサービスの送迎が来る前の時間帯に訪問介護を利用して、「食事の準備と調理」「服薬の確認」「起床・更衣などの外出準備」を行ってもらうのです。

そうすることによって、朝食と服薬の確認もできます。さらに、デイサービスに行く準備をして送迎に遅れることなく通うことができるのです。

このように、訪問介護は親(または配偶者)が住み慣れた自宅で生活していく上で必要な「身体」と「生活」の両面からのサービスを受けることができます。

訪問介護を利用できる時間

さらに訪問介護では、サービスを提供する時間の枠が決まっています。

例えば、通常の訪問介護事業所に対する基準では、身体介護の提供時間は「20分未満」「20分以上30分未満」「30分以上1時間未満」という時間枠が決められています。

また、生活援助では「30分以上45分未満」「45分以上」という提供時間枠が定められているのです。

そのため、ケアプラン(居宅介護計画書)には、「生活援助のために掃除と調理を45分未満の枠で提供する」というような記載をされます。

具体的に、脳梗塞の後遺症がある方の訪問介護を利用する事例で考えてみましょう。

ケアプラン(居宅介護計画書)には、「月曜日のAM10:00~AM11:30まで生活援助と身体介護を合わせて1時間半利用」というように予定します。その内容としては、掃除と洗濯、入浴介助と調理介助です。

実際に、ヘルパーが行う内容は次のことです。

・本人ができない掃除と洗濯を行う

・一人では入浴が難しいため、ヘルパーが介助しながら入浴を行う(入浴後の風呂掃除も含む)

・本人の「料理を自分でできるようになりたい」というニーズに合わせて、本人と一緒に昼食と夕食作りを行う

この場合、調理介助は本人と一緒に行うため「生活援助」ではなく「身体介護」とみされます。

このように、訪問介護は介護保険法において、そのサービス内容や提供時間まで細かくケアプラン(居宅介護計画書)で計画するように決められているのです。

また、そのサービス内容や提供時間にも制限が課せられています。訪問介護を利用する側も、制約があることを知っておくことが必要です。

さまざまな場面でヘルパーができること・できないこと

では、具体的にヘルパーが「できること」「できないこと」とは、どのようなものがあるのでしょうか。

提供時間の延長

上記でもお伝えしたように、訪問介護では事前にケアプラン(居宅介護計画書)で提供時間やサービス内容が決められています。そのため、ヘルパ―の判断で提供時間を変更することは基本できません。

たとえば、親(または配偶者)が訪問したヘルパーに「時間を延長して(提供内容にはない)洗濯もしてほしい」と言ったとしたらどうでしょうか。

もちろんヘルパーは、「それは今日のサービス内容に含まれていないため、できません」と断わるでしょう。

サービスを利用する親の立場からは「融通がきかない」と思われるかもしれません。しかし、介護保険サービスである以上は、簡単に介護計画の内容を変更することができないのは仕方がないことなのです。

もし、サービス内容や提供時間を変更したい場合は、事前に担当のケアマネジャーへ連絡して相談することをお薦めします。

医療的なサービス

訪問介護では、原則として医療的なサービスを行うことができません。

たとえば、家族が看護師の資格を持っていなくても、親(または配偶者)に対して痰の吸引を行うことができます。しかし、痰の吸引(喀痰吸引)をヘルパーが行うことは許されていません。

平成24年から「喀痰吸引等研修を修了したヘルパー(認定特定行為従事者認定書を保有する者)であれば痰の吸引を行うことができる」とされていますが、ほとんどのヘルパーが習得できていないのが現状です。

また、身体介助に含まれる「内服介助」も薬の内服を声掛けしたり、内服を確認したりする行為を指します。そのため、家族の代わりに親の口を開けて薬を口の中に入れるというような服薬介助はできません。

一見、大した差ではないように感じられるかもしれませんが、ヘルパーが行えるサービスは細かく決められているのです。

ただ、介護の知識がない人には、血圧測定などのように医療行為かそうでないかの線引きが難しいものがあります。そこで、厚生労働省から線引きの難しい行為については「医療こういではないと考えられる行為」として通知が出ています。

以下に、厚生労働省が通知している「医療行為ではないと考えられる行為」についてまとめます。

①一般的な方法による体温測定

②自動血圧計による血圧測定

③パルスオキシメーターの装着

④軽微な切り傷ややけどなどの処置

⑤医薬品使用の介助(軟膏をぬる、湿布を貼る、目薬の点眼など)

⑥爪切り・やすりがけ

⑦日常的な口腔ケア(歯磨きなど)

⑧耳垢(じこう)の除去

⑨ストマ―装具のパウチにたまった排泄物の除去

⑩自己導尿のカテーテルの準備・姿勢の保持など

⑪市販品の浣腸の使用

もし、在宅で医療行為の必要な親を支える場合には、看護師が訪問する「訪問看護」や医師又は薬剤師などが自宅に来て指導する「居宅療養管理指導」などを合わせて利用することが必要です。

生活面でのサービス

訪問介護は、介護サービスであって「家事代行」とは異なります。

そのため、親ができるのに「やりたくないから」という理由でヘルパーに掃除や調理を依頼することはできません。

また、訪問介護では「介護を必要とする人が自立した生活を送ること」を目的にしているため、日常的家事の範囲を超える行為や直接本人の援助に該当しない行為を行うことができないことになっています。

具体的には、草むしりや花の水やり、ペットの世話、家具などの模様替え、大掃除、来客の応接などの行為です。

さらに、家族と同居しているケースは、基本的に「生活援助」を利用することができません。

なぜなら、掃除や洗濯、料理などの生活援助は同居家族が行うことができるとみなされるからです。

しかし、同居家族が高齢であったり、仕事などで不在が多かったりする場合などはサービスを利用することができます。ここで注意したいのが、あくまでもサービスを利用人が対象です。そのため、「同居家族の分も合わせて食事の準備をしてほしい」という要望などはできせん。

自宅外でのサービス

そして、訪問介護では「病院などへの通院介助」や「外出介助」を受けることができます。

たとえば、歩行が不安定になってきた親が一人での外出を怖がり、自宅に閉じこもるようになったケースでは外出介助を取り入れることもあります。ただ、外出介助の目的が「散歩」などの娯楽だけでは介護サービスに取り入れることができません。あくまでも、日常生活を支えることが訪問介護の目的であるため、「買い物」や「銀行」「役所」などへのいくためのである必要があります。

また、「病院への通院介助」では、病院への行き帰りを介助することが対象となります。そのため、基本は病院の長い待ち時間の間ずっと付き添うことはサービスの対象ではありません。

つまり、病院まで付き添ってもらえたとしても、帰る時間がはっきりわからない中ではヘルパーに対応してもらうことは難しいと言えます。このようなケースでは、訪問介護ではなく介護タクシーを利用する方が親(利用者)も気兼ねなく利用できるのではないでしょうか。

このように、訪問介護は介護保険サービスであるがゆえにサービスの内容や提供時間にも制限が生まれます。さらに、提供するサービスは、必ずケアプラン(居宅介護計画書)に記載されていなければいけません。

もし、あなたが「ヘルパーさんは融通がきかない」「お願いしたことをしてくれない」と感じた時は、一度冷静に考えてみて下さい。ヘルパーには対応できないことをお願いしてはいないでしょうか。

逆にヘルパーから「あの利用者は、できないことばかり言ってくるので困る」と、思われてはいないでしょうか。

自宅に訪問してサービスを行う訪問介護では、利用者や家族とヘルパーとの信頼関係がとても需要です。そのため、訪問介護を利用する側もサービスの内容や仕組みをきちんと理解して利用することが大切になります。

ぜひ今回の「ヘルパーさんができること・できないこと」を参考にしてみて下さい。

また、実際に介護サービスを利用する時には、「今、親の生活で何が困っているのか?」「これからどのように生活していきたいのか?」を整理することが必要です。

その上で、信頼できる担当のケアマネジャーと相談しながら親(または配偶者)にあったサービスを選択してください。

以下に、ヘルパーが「できること」「できないこと」の主なものをまとめます。

ヘルパーが「できること」「できないこと」に関しては、事業所やお住まいの市区町村で若干異なりますので、担当のケアマネジャーにお尋ねください。

 身体介護生活援助
できること〇食事の介助
〇移介助
〇体位交換
〇トイレ誘導・排泄愛所・おむつ交換
〇パウチにたまった排泄物の処理
〇カテーテルの準備
〇着替え・洗面など
〇入浴介助・清拭
〇歯磨きなどの口腔ケア
〇髭剃り・爪切り・耳垢掃除
〇体温測定・血圧測定
 (自動測定できるもの)
〇軽微な切り傷・擦り傷・やけどの処置(軟膏をぬる・湿布を貼るなど)
〇服薬を見守る
〇移動や食事、家事の際の見守り・声掛け
〇自宅や病院まで、タクシーや交通公共機関での付き添い
〇病院での支払い代行
〇車椅子や徒歩での日常的な外出の付き添い
 (銀行・郵便局・買い物など)
〇一包化されている内服薬の介助
〇日常的な調理・配膳・後片付け
〇本人が過ごす場所の整理整頓
〇日常的なゴミを集積場へ持っていく
〇日常着の洗濯
〇本人分の生活必需品の買い物を代行
〇電球の取り換え
〇ベットメイク
〇本人の分の衣替え
〇薬の受け取りに行く
できないこと×経管栄養(胃ろう・経鼻経管栄養)*1
×痰の吸引 *2
×胃ろうチューブの洗浄
×肌に接着したパウチの取り換え
×カテーテルの洗浄
×褥瘡(じょくそう)の処置
×散髪
×巻き爪等変形した爪の爪切り
×医学的の判断が必要な傷の処置
×口を開けさせて薬を飲むのを手伝うこと
×自宅から病院まで、利用者やヘルパーの自家用車を運転すること
×本人の代わりに医師へ説明する
×入院中の付き添い
×通院時の病院内での付き添い(状況によって可能な場合もある)
×ご家族に代わって入院の手続き
×娯楽・趣味・散策目的の外出
×地域行事jや冠婚葬祭への外出に付き添う
×一回分の薬の取り分けや処方された薬の仕分け (薬カレンダーへのセット)
×本人以外の食事を作る
×行事食(行楽弁当・おせち等)を作る
×家電・家具の移動や修理
×自家用車の洗車
×デパートなど特別な買い物への付き添い
×家族分の買い物をする
×車の運転を代行する
×預貯金の引きおろし代行
×花などへの水やり
×ペットの世話や散歩
×茶飲み話だけが目的の話相手
×金銭や貴重品の管理
×本人が留守の状態でのサービス

*1  ヘルパーさんが、経管栄養を実施する場合、都道府県より「認定特定行為業務従事者認定証(省令別表第三号研修修了者)」の交付を受けている必要があります。また、そのヘルパーさんが所属している事業所が、「登録特定行為事業者」として都道府県に登録している必要があります。

*2 ヘルパーさんが、たんの吸引を実施する場合、都道府県より「認定特定行為業務従事者認定証(経過措置・特定の者対象)」の交付を受けている必要があります。また、そのヘルパーさんが所属している事業所が、「登録特定行為事業者」として都道府県に登録している必要があります。