親が認知症を患った時、周りの家族は「これからどのように関わっていけばよいのか?」と悩まれるケースもあるのではないでしょうか。
認知症の方の中には、記憶力の低下に伴い何度も同じことを繰り返し言われる人もいます。また、急に怒り出したり、「今がいつで、周りの人が誰なのか?」などがわからなくなったりすることもあります。
そのため、家族は「以前の親とは変わってしまった」と感じることもあるのではないでしょうか。しかし、認知症を患ったとしても親であることには変わりありません。
認知症ケアでは、たとえ認知症を発症されたとしても「その人らしい感じ方」や「その人らしい行動」は失われないと考えられています。
また、介護とは、要介護者を主体としたものです。その人の性格や嗜好、考え方などをよく把握することから始めなければいけません。その上で、その人らしい生活づくり、関係づくりを行っていきます。
そう考えると、いつも身近にいる家族こそ「親にとって一番の理解者」になるのです。つまり、家族が「介護の主役になって関わること」が親にとって一番良い介護ということになります。
これは、在宅介護だけではなく、親が施設に入ったとしても変わりありません。なぜなら、施設に入ったとしても、家族との関係がしっかりしている方は落ち着かれて過ごされていることが多いからです。
では、家族は認知症を患った親とどのような関わる方をすると良いのでしょうか。
そこで今回は、「認知症を患った親に家族が関わる時の3つのポイント」についてお伝えします。
ありのままを受け入れて認める
「ありのままを受け入れて認める」というと難しく感じるかもしれませんが、これは、家族が認知症の親と関わる中で「親の言動を否定しない」という考え方を意味します。
自分の言動を相手が受け止めて、それを認めてもらうことで人間は安心感を得ます。また、その相手に心を開きやすくなるのです。
これは、認知症の方だけでなく、誰しも同じではないでしょうか。
例えば、一組のカップルの会話で例を挙げると
彼女:「このペンダントかわいい?」
彼氏:「そうだね、かわいいね」というパターンと
彼女:「このペンダントかわいい?」
彼氏:「ちょっと安っぽいんじゃない」というパターンではどうでしょうか。
上記の会話では、ただ単にオウム返ししているだけのようですが、彼女の思いを認めているように感じないでしょうか。それに比べて、下記の会話では彼女の意見を否定したように感じます。
親との関わり方も同じなのです。親の言葉をオウム返しするだけでも、親は「自分の言ったことを受け止めてくれた」と感じます。
このように、認知症の親とかかわる時には「頭から否定しないこと」が大切になります。認知症の方も、相手が自分のことを受け入れて認めてくれるとわかれば、安心感を持って心を開いてくれます。たとえ、何度も同じことを言ったとしても、それを受け止めることが求められているのです。
心地よく安心できるように
認知症の方は、常に不安の中で生活しているといっても過言ではありません。「ここがどこか、今何をするべきなのか?」ということがわからなくなっていく状況で、日々の生活を送っています。
そのため、認知症ケアでは「その方が落ち着き、安心して日々の生活が送れること」を一番に考えます。これは、家族介護でも同じことが言えるのです。
では、認知症を患った親に心地よく安心してもらうためには、どのように関わればよいのでしょうか。
スキンシップ・タッチケアで心地よく
人の体は不思議なもので、背中や手をゆっくり擦られるだけでも穏やかになったり、リラックスした気分になったりします。これは、ボディータッチなどによる心地よい刺激によって、オキシトシンという愛情ホルモンが放出するからだと言われています。
そのため、認知症の親が興奮している時にも背中や肩、手を擦りながら会話することで落ち着きを取り戻せる場合があるのです。また、生活の中でも、会話する時や介助をする際にそっと体に触れることで安心感を持ちやすくなります。
ただ注意したいのは、突然体に触れないことです。必ず親の視線に入り、声をかけながら触れることが大切です。また、上から掴むように触れるのではなくて、下から支えるようにすることもポイントになります。
逆に、親から肩を擦ってもらうことでも親のオキシトシンの放出を促せます。触れている方も、触れられている方もお互いに安心感を得ることができるのです。
このように、スキンシップを上手く活用して、親との関係を良好にすることで、親にとって心地よい空間を作り出すことが可能になります。
ゆっくり話してゆっくり行動する
また認知症の進行だけでなく、加齢に伴って耳が聞こえにくくなる場合も多くあります。そのため、家族の言葉が聞き取れなかったり、理解する時間がかかったりするようになるのです。
だからこそ、家族は意識してゆっくり、はっきりと話すことが必要になります。
例えば、親に声をかけて流れるように要件を話すのでは伝わりません。まずは、名前を呼んで親が自分を視野にとらえたことを確認してから要件を話す必要があります。
また、認知症が進行してくると、家族の伝えたいことを一度に処理できなくなる場面が多くなります。そのため、親の行動を確認しながら、次のことを伝えるという工夫が大切です。
このように、認知症を患った親が「心地よく安心できる空間」になるように家族が関わっていくことが重要になります。家や家具などと同じように、親にとっては家族自体も、環境の一部なのです。そのため、家族との関係が悪くなってしまうと、親が落ち着いて生活できる状況ではなくなります。
マイナスをプラスにするかかわり
認知症を患った親と接する時、家族は「マイナスをプラスにする関わり方」を意識することがポイントです。
例えば、認知症を患う以前の親と今の状態を比べるのではなく、今の親をありのまま受け止めることも一つの方法です。また、できないことではなくて、できることに注目し「親の役割づくり」を行うのもいいでしょう。
近い将来、認知症が進行していき「できないこと」はどんどん増えていくばかりです。それならば、早い段階で「今できること」を大切にしていくように考えを変える方がお得ではないでしょうか。
笑顔が一番
相手は自分の鏡。自分が笑顔になれば相手も自然と笑顔になります。特に、アルツハイマー型認知症では、脳内の感情を司る「偏桃体」という部分にもダメージを受けることがわかっています。
これによって、感情がなくなるのではなく「感情の感じ方が変わる」と言われています。そのため、アルツハイマー型認知症の方は、感情的になったり、感情に敏感になったり、感情を揺さぶられやすくなるのです。
また、相手の表情から思っていることを過剰に感じとってしまうこともあります。そこで、関わる中で重要なのが「笑顔」なのです。どんなに優しい言葉をかけたとしても無表情であれば「怒られている」と感じてしまいます。
だからこそ、認知症の親とかかわる時には笑顔が一番なのです。
家族が心にゆとりをもつ
認知症の進行と共に、日常生活の中でも、できなくなることや失敗が増えていきます。その時に、親に対して「叱りつけるような態度をとる」か、「大丈夫だよ」と声をかけられるかは「家族自身の心にゆとりがあるかどうか?」によって違ってきます。
例えば、同じような失敗をしても、相手が幼児ならば「何も知らないのだから失敗も仕方がない」と思うはずです。しかし、相手が高齢者(親)であるだけで「知っているはずなのに失敗するから腹が立つ」という感情になってはいないでしょうか。
認知症を患うと、子供に戻るという表現をよくされます。失敗するのは仕方がない、親が失敗して自信を無くさないように家族が関わっていくことが必要なのです。
ただ、子供に戻ると言っても「親には今まで生きてきた人生」があるということを決して忘れてはいけません。叱りつけるのではなく、母親が赤ちゃんに寄り添うように、認知症を患った親に家族が寄り添うという姿勢が大切なのではないでしょうか。
このように、現状に対する家族のとらえ方をプラスに変えて、親とかかわることがポイントになります。家族がマイナスにとらえてばかりでは、家族の心にもゆとりができません。家族がイライラしていると、不思議と認知症の親にもその気持ちは伝染します。
今回は認知症を患った親とのかかわり方のポイントをお伝えしました。しかし、これらは家族が親の今の状態を受け入れていなければ難しいことです。加齢に伴って弱っていく親をまずは受け入れることと、「認知症」という言葉だけに囚われすぎないことも必要になります。
家族だけで抱え込むのではなく、悩んだり迷ったりした時に相談できる友人や仲間を作っておくことをお薦めします。