認知症はおもに「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭葉変性症」「脳血管性認知症」の4つの種類があります。それぞれの種類によって認知症を引き起こす原因が違います。そして、症状や介護する上で気を付ける点も違うため、認知症の種類を知ることはとても大切です。
全国の認知症患者は約450万人以上いるといわれています。そのうちの約44%が「アルツハイマー型認知症」、約21%が「レビー小体型認知症」、約15%が「前頭側頭葉変性症」、約10%が「脳血管性認知症」です。
もし、あなたの両親(または配偶者)が認知症を患っているとしたら、どの種類の認知症かを知ることはとても大切です。そうすることで、認知症が悪化する前に、対応策を考えることができます。また、認知症の種類によって間違った薬を飲むと症状を悪化させることもあるため、そうした事態を防ぐことにもつながります。
さらに、認知症の特徴的な症状を知ると、親の異常にも早く気づくことができ、認知症の早期発見が可能になります。
そこで、今回は「認知症の代表的な4つの種類と特徴」について説明します。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー型)は、脳内に特殊なタンパクが蓄積することにより、脳全体が委縮(しわが深くなる)していきます。特に、脳内で記憶を司る「海馬(かいば)」が初期段階で委縮するため、最初に記憶障害が現れることが特徴です。
そして、個人差はありますが、早い人で5年程度、長い人では10年~20年かけて進行していきます。認知症の中では、比較的ゆっくりとした進行をたどります。
具体的な症状としては、出現する時期によって「初期」「中期」「後期」の3つに大きく分けられます。初期の段階では、「数分前や数日前の記憶がない(近時記憶障害)」や、「日時や曜日が分からなくなる(時間の見当識障害)」「計画を立て、判断しながら物事を行えなくなる(実行機能障害)」などが代表的です。
さらに中期の段階では、記憶障害の悪化と共に、「今、自分がいる場所がわからない、目の前の相手が誰なのかがわからない(場所・人物の見当識障害)」や、「衣服の脱ぎ着などができなくなる(失行)」「物の名前や形、使い方が分からなくなる(失認)」などの症状があります。
そして後期の段階になると、記憶全般の障害や、人格の変化がみられるようになります。清潔と不潔の違いが判らなくなり、自分の便を手で触る行為が見られることもあります。また、次第に言葉数が減り、昼間もウトウトされ最期は寝たきりになります。
以下にそれぞれの時期ごとの特徴をまとめます。
また、アルツハイマー型は、初期の記憶障害がみられたときに、他にも大きな特徴が2つあります。1つは、「取り繕い(とりつくろい)反応」です。
具体的には、認知症である家族が約束を忘れてしまい失敗した時に、「歳をとれば忘れやすくなるわよ」「今日はちょっとうっかりしていただけ」と、自分が忘れたことをごまかそうとする行為のことです。
このように、アルツハイマー型の初期段階では、正直に「覚えていない」とは言わず何とか取り繕おうとします。
もう1つの特徴は「物盗られ妄想(被害妄想)」です。これは、本人が物をしまった場所がわからないにも関わらず、「あの人が盗っていったに違いない」などと、人のせいにするような行動です。これは、自分で片付けた場所がわからないことを無意識にごまかそうとして起こる症状です。
そして、「取り繕い反応」や「被害妄想」がみられた時は、本人の言っていることを否定するのではなく「そうでなんですね」と、受け止めることが大切です。その上で、一緒に探し物や、問題を解決します。
認知症の人に対して、間違いを指摘したり、否定したりすることは良くありません。そうした対応は自分自身(認知症のひと)が否定されたように感じさせることになり、興奮や立腹の原因となるからです。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症(以下、レビー小体型)は、脳内の一部に「レビー小体」と呼ばれる物質が蓄積することにより神経細胞の変性が広がることで発症する病気です。特に、視覚に関係する後頭部や、人の意識などを司る「脳幹」、嗅覚を司る前頭部などにレビー小体が蓄積します。
そのため、レビー小体型では嗅覚障害(匂いがわからない)や歩行障害、幻視(実際にはないものが見える)などの特徴的な症状が現れます。
例えば、「お皿が人の顔に見える」や、誰もいない場所を指し「あそこに小さな子供が座っている」と言うなどの言動が見られます。また、歩行障害では「小刻み歩行(歩幅が小さくすり足に近い歩き方)」や「前傾姿勢(前のめりに歩く)」などが特徴です。
ただ、「なぜ、レビー小体が脳に蓄積するのか」など、レビー小体型の原因は未だに明らかになっていません。
その中でも、発症される人の多くが「まじめな性格であること」がわかっています。また、発症初期には性格が暗くなり、気分の落ち込みや気力の低下がみられ「うつ病」と勘違いされる事もしばしばあります。さらに、平均して3年~7年程度で進行していくなど、進行速度が速いのも特徴のひとつです。
このように、一見するとレビー小体型はアルツハイマー型に比べて、特徴的な症状により早期発見されやすいように思えます。しかし、レビー小体型の診断は難しく、現に「うつ病」や他の認知症と間違って診断されているケースも多くあります。また、認知症の治療薬としてよく使われる「アリセプト」という薬を飲むと、症状が悪化する症例も少なくありません。
そのため、介護する上では、レビー小体型を疑うような言動が見られた場合には、早期に専門医への受診をおすすめします。また、歩行障害が出るため、転倒予防への対策が必要です。
前頭側頭葉変性症
前頭側頭葉変性症は、脳の前頭部や側頭部が萎縮することにより起こる認知症です。
前頭葉は「理性の座」とも呼ばれ理性や意欲、計画性など、「人間らしさ」を司っている場所です。また、側頭葉は言葉の意味や物の名前を理解する部分になります。
そのため、前頭側頭葉変性症では、反社会的行動や言葉の理解力低下による「失語」などの症状が出現するのが特徴です。さらに、人によっては、同じ行動を繰り返す「常同行動」もみられます。
具体的には、前頭葉の萎縮により理性のコントロールが効かなくなります。そのため、人格が変わったように急に怒りっぽくなったり、身だしなみに気を使わなくなったりします。さらに、会話の途中で急に席を立ったり、万引きなどの反社会的行動がみられたりすることもあります。
その他にも、言葉の理解力低下により「オウム返し(同じ言葉を返す行為)」や物の名前が出にくくなったり、違う物の名前を言ったりするといった症状が出現します。
このように、前頭側頭葉変性症には特徴的な症状がいくつかあります。ただ、人によって萎縮する部分が違い、症状の現れ方がさまざまであるため、診断が難しい場合があります。
そして、前頭側頭葉変性症は他の認知症と比べて周囲の人に大きな影響を与えてしまう行動が多いため、介護する上でも事前の対策が大切になります。
さらに、アルツハイマー型に比べて進行が早く7年程度で進行し、寝たきりになります。そのため、早期発見と早期治療が大切になります。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、脳の血管が切れる「脳出血」や、脳の血管が詰まる「脳梗塞」が原因で起こる認知症です。こうした脳血管障害の4~6ヶ月後に、認知症を発症しやすいことが分かっています。しかし、脳梗塞後に必ず認知症になるとは限りません。
脳出血や脳梗塞のために、血液が届かなくなった部分の脳組織で神経細胞が死滅し認知症が起こります。そのため、当然ながら症状もその人によって違いがみられます。
脳血管性認知症の症状としては、アルツハイマー型と同じものが現れます。
例えば、「近時記憶障害(最近における記憶の障害)」や「時間の見当識障害」「実行機能障害」などがあります。ただ、その人によって、症状の程度にはばらつきがあります。
脳血管性認知症の特徴としては、他の認知症と比べ「人格が最後まで失われにくい」ということが挙げられます。
しかし、脳梗塞などの再発があると段階的に症状が悪化していきます。また症状の現れ方も、「計算力は変わらないのに、新しい物事は記憶できない」というように「まだら」であることが多いです。そのため、脳血管性認知症は「まだら認知症」とも言われます。
さらに、感情を抑えることができずに、突然笑ったり怒ったりする「感情失禁」も特徴的な症状の1つです。
症状の特徴をみて分かるように、脳血管性認知症は、しっかりと人格が残っている反面、認知症状への喪失感が大きくなります。そのため、介護する上では、本人の気持ちに寄り添うことが最も大切です。
以上に述べたように、認知症には大きく分けて4種類ありますが、人によっては混合型タイプの方もいます。たとえば、「アルツハイマー型と脳血管性認知症の混合型」などです。
そのため、家族(または配偶者)の認知症がどの種類であるかは、専門医に行き診断することが大切です。
このように、一見同じように見える認知症ですが、種類により症状も大きく違います。また、介護する上で気を付ける点も異なるため、介護者自身がある程度の知識を持っておくことが大切です。
認知症の人を支える家族にとっては、分からない事が多く不安だと思います。認知症介護は家族だけで抱え込まず、専門家や経験者に相談することが大切です。
認知症の人を介護しているのであれば、ぜひ今回の「認知症の代表的な4つの種類と特徴」を活用してみてください。