認知症の親・配偶者にあった老人ホームを選ぶ3つのポイント

誰でも住み慣れた家で最期まで暮らしたいと思うのが普通です。認知症を患っている方であっても、その思いは変わりません。しかし、家族と同居していたとしても、「要介護者の病気の進行」や「家族の状況の変化」によって自宅介護が難しくなる場合もあるのです。

個人差はありますが、認知症は症状が進行していく病気であるため、病気の進行に伴って日常生活に対する支障も大きくなっていきます。例えば、認知症が進行して、「トイレの場所」や「トイレの使い方」がわからなくなった方を、家で一人にしておくことはとても難しいことです。

また認知症介護は、24時間365日の介護支援が必要になるため、介護保険サービスを利用したとしても家族の負担は大きくなります。さらに、介護している家族にも仕事や生活があり、認知症の親・配偶者を常に中心にして動くことができないのが現状です。

このように、認知症を患った人は住み慣れた家であっても、一人では過ごすことができなくなる場合もあります。その時に、家族だけで介護を抱え込むのではなく、「老人ホームに入居する」ということも1つの解決策として考えることが大切です。

ただ、老人ホームと一言で言っても沢山の種類があります。例えば、認知症を患った方に特化した「グループホーム(認知症対応型共同生活介護)」であっても、お住まいの市区町村にいくつも事業所があるような状態です。そのため、「家族だけで老人ホームを選ぶ」ということはとても大変なことになります。

そこで今回は「認知症の親・配偶者に合った老人ホームを選ぶ3つのポイント」についてお伝えします。

老人ホームによって受けいれる人の基準が違う

認知症の親・配偶者に合った老人ホームを選ぶ1つ目のポイントは、老人ホームの入居条件を知ることです。

老人ホームの種類

まずは、老人ホームの種類を知ることが大切になります。一般の方は「老人ホーム」という言葉を使われますが、実は老人ホームもいくつかの種類があり、その種類によって「提供されるサービスの内容」や「入居できる人の条件」「費用や料金」が違うのです。

以下に、主な老人ホームの種類をまとめます。
・特別養護老人ホーム
・介護老人保健施設
・介護療養型医療施設
・ケアハウス
・養護老人ホーム
・グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
・サービス付き高齢者向け住宅
・介護付き有料老人ホーム
・住宅型有料老人ホーム
・介護付き高齢者専用賃貸住宅

この10種類の老人ホームの中でも「ケアハウス」「養護老人ホーム」は、介護を必要としない自立した方を入居対象としているため、認知症を患っている人の入居は難しくなります。

また、「介護老人保健施設」は病院から在宅の生活に戻るためにリハビリを中心に行う施設なので、認知症の親(または配偶者)の入居を考える時には対象とはならないのです。同じように、「介護療養型医療施設」は医師の判断で継続的な治療が必要となる方を対象にした施設のため、家族や本人が探して入れるわけではありません。

そこで今回は、認知症の人を対象に家族でも探せる老人ホームについて説明します。

老人ホームの入居条件

ここからは、それぞれの老人ホームにおける入居条件を記します。

特別養護老人ホーム

特別養護老人ホームは「特養」ともいわれており、一般の方でもよく耳にされる施設になります。入居に必要な条件は、「要介護3以上」の介護を必要としている方です。以前は、要介護1以上であれば入居申し込みをすることはできていましたが、入居を待つ方が多いこともあって平成27年度より「要介護3以上」と入居条件が厳しくなっています。

しかし、要介護3~要介護5の方を対象としている施設であるため、認知症に対しても、症状が進行している方はもちろん、認知症の症状が重度になっても退去の心配をせず介護を受けることができるのが特徴です。

グループホーム(認知症対応型共同生活介護)

グループホームは、認知症を専門としている入居施設になります。そのため、要支援2~要介護5で、認知症の方で集団生活ができれば、症状の重度であっても入居することが可能です。

ただし、「認知症という医師の診断」がなければグループホームに入居することはできません。

さらに、グループホームは介護保険サービスの「地域密着型サービス」という分類に含まれていて、グループホームがある市区町村に住民票がある方でなければ対象とならないのです。

また、グループホームの特徴としては「少人数で家庭的な雰囲気」ということが挙げられるのですが、医療的な面では対応力が弱いのが欠点になります。基本的に医療的ケアを行っていない事業所が多く、「胃ろう(胃にチューブで直接栄養を入れる方法)」や「経鼻栄養(鼻からチューブで直接栄養を入れる)」「点滴」「透析」などを常に必要とする方は入居できない場合が多いです。

介護付き有料老人ホーム

介護付き有料老人ホームは、要介護1以上の寝たきりの方から認知症の方まで受け入れてくれる施設が多いです。認知症の人に対しては、「症状が軽度の人から重度の人まで受け入れ可能」という施設がほとんどになります。

また、介護付有料老人ホームでは日中、看護師が常駐している施設も多いため、前項で紹介したグループホームに比べ、医療的なケアが充実しています。

住宅型有料老人ホーム

住宅型有料老人ホームは、おおむね60歳以上の日常生活が自立している方から軽度の要介護状態の人が対象です。

住宅型有料老人ホームの主なサービスは、「安否確認」や「緊急時の対応」「食事の提供」「生活援助」であるため、介護度が重い方を受け入れることが難しい施設が多くなります。そのため、認知症の症状進行に伴って「自分の部屋がわからない状態」になると住み続けることは難しく、入居できても長くは住めない場合が多いです。

サービス付き高齢者向け住宅

サービス付き高齢者向け住宅は、「高齢者の方が住みやすいバリアフリーの造りになっている賃貸住宅」と考えるとイメージしやすくなります。認知症の方の受け入れも「軽いもの忘れ程度」であれば入居できます。

しかし、在宅の介護サービスを利用しても「自立した生活を送ることができない」という方は、施設から入居を断られるケースが多いです。

このように、施設の種類によってサービスの内容や対象とする人が違うため、入居できる条件も違ってきます。そのため、親(または配偶者)の認知症状の状態や必要な介護の種類によっては入居できない施設もあるのです。しかし、上記でお伝えした入居条件はあくまでも基本的なものなので、各施設によっては認知症の方を受け入れる条件も違いが見られます。詳しい条件に関しては、必ず施設に確認が必要です。

以下に、「老人ホームの入居条件」をまとめます。

老人ホームの入居条件(認知症のある方)

施設の種類 介護状態 認知症状 医療ケア その他
特別養護老人ホーム 要介護3以上 重度でもOK
ただし、他の入居者への迷惑行為(暴言や暴力など)のある方はNG
看護師が日中常駐

入居希望者が多く、すぐには入居できない。
グループホーム 要支援2~要介護5

 

看護師がいない施設もある

施設所在地の市区町村に入居希望者の住民票がなければならない。

医師による認知症の診断が必要。

介護付有料老人ホーム 要介護1~要介護5 自分の居室がわからない程度の認知症の方はNG 看護師が日中常駐
特別養護老人ホームと比べると、すぐに入れる可能性もあるが費用が高い。
住宅型有料老人ホーム 自立~軽度要介護 認知症状で在宅の介護サービスを利用しても「自立した生活をおくることができない」という方はNG 施設専属の看護師はいない

×

認知症ケアについては、あまり期待できない。
サービス付き高齢者向け住宅


*上記内容にあてはまらない施設もあります。

認知症の親・配偶者が「望む生活」と「相性の合う施設」

認知症の親・配偶者に合った老人ホームを選ぶ2つ目のポイントは、「認知症の親(または配偶者)の望む生活を知ること」と「本人と相性の合う施設を選ぶこと」です。

親・配偶者の望む生活

老人ホームによっては、提供されるサービス内容や、入居されている方の状態に違いがあります。そのため、認知症の親(または配偶者)が老人ホームに入って「どのような生活をおくりたいのか?」「何をしたいのか?」などを確認しておくことが大切です。

特に、認知症が初期の場合は、本人の意思もはっきりされていることが多く「住み慣れた家でずっと生活したい」という思いを強く持たれている方がほとんどになります。しかし、老人ホームを探すということは、住み慣れた家では生活が難しくなっているのが現状です。

そのため、本人にも納得してもらい老人ホームに入居をしてもらわなければいけません。なぜなら、本人が納得しないまま老人ホームに入居してしまうと、入居した後に問題となってしまうからです。

例えば、一人暮らしの親が軽度の認知症だとわかった場合に、老人ホームを家族が探されるケースがあります。

親の認知症状としては、「買い物で同じものを間違って何個も買っている」「たまにコンロの火を消し忘れて鍋を焦がしている」という程度の状態であっても、離れている家族は一人暮らしを続けることに対して不安になるはずです。ただ、親自身は「体も動くし、一人で外出できるのだから一人で暮らせる」と思っている場合が多くあります。

そこで大切なになるのが、「本人の望む生活に近づける」ことなのです。それでは、本人の望む生活とはどんなものなのでしょうか。

多くの方は、「今の生活を続けていきたい」と言われる方が多いです。ただ、今の家では一人で生活を続けることが難しくなっているので、今に近い生活をおくれる老人ホームを探すことが望まれます。

この方の場合は、認知症を専門としたグループホームや介護の手厚い介護付き有料老人ホームでは、たとえ入居できたとしても「こんなはずではなかった」と思われるのではないでしょうか。なぜなら、「自分でまだ生活できる」と思われている人には、必要以上の介護は重荷でしかないからです。

一方で、サービス付き高齢者向け住宅に入居したとしたら、認知症状の進行に伴って、部屋や周りの地域環境を新たに覚えることが難しく生活を続けることが困難になります。

こうしたことから、この方の場合には「安否確認」や「食事の提供」というサービスを中心に「自分で好きな時に外出ができる」という「住宅型有料老人ホームが合っている」と考えることができるのです。

親・配偶者と施設の相性

老人ホームには種類がさまざまありますが、同じ種類の施設でも各自で特色があり、建物やスタッフの雰囲気にも違いがみられます。入居する親(または配偶者)に、「その施設の雰囲気が合っているのか?」「スタッフや他の入居者との相性が合うのか?」ということも大切になるのです。

例えば、同じグループホームであっても「建物の造り」や「室内の装飾品」が、和風だったり、洋風だったりというように違いがみられます。また、働いているスタッフの年齢層や人柄によっては「明るい雰囲気」や「落ち着いた雰囲気」という違いもみられるのです。さらに、すでに入居している方の平均介護度や認知症状の状態によっても「活動的な雰囲気」や「ゆったりとした雰囲気」に分かれることがあります。

そのため、「親(または配偶者)と相性が合うのか?」「本人の好む雰囲気なのか?」を見学の際に確かめることが必要です。

このように、老人ホームを探す時には「入居する本人の思いもきちんと聴くこと」「施設を見学して雰囲気や本人との相性を確かめること」が大切になってきます。特に、認知症の人にとっては、環境の変化は症状の悪化につながることもあるため、頻回に住まいを変えることはおすすめできません。そして、何よりも入居する本人が納得できていないと「帰宅願望」などにつながってしまい、入居後に大きな問題となってしまうのです。

家族との関係を継続する

認知症の親・配偶者に合った老人ホームを選ぶ3つ目のポイントは「家族との関係性を継続できる場所を選ぶこと」です。

老人ホームの中には、グループホームのように特定の地域に住所がある人を対象にした施設もありますが、ほとんどの施設は住所地に関係なく選ぶことができます。しかし、親(または配偶者)が今まで住んでいた馴染みの場所から、あまりにも離れてしまう施設を選ぶと、本人にとって不安も大きくなるはずです。

また、老人ホームに入居したからといって、「家族が何もしなくていい」ということではありません。体調を崩し緊急入院する際には、必ず駆けつける必要がありますし、施設によっては病院への受診や外出時には、家族の付き添いでなければ対応してもらえない事もあります。

さらに、認知症の症状の進行に伴って、家族の協力がなければ入居を続けることが困難になることもあるのです。

例えば、「グループホームに入居されている女性が、この2~3日いつもと違って怒りやすくなっていたのに、娘さんが面会に来た後から穏やかになった」という事例はよくあります。認知症の進行に伴って、言葉で自分の気持ちを表現できなくなってはいますが、誰でも「家族に会いたい」という思いは変わらないはずです。

そして、認知症の人は、言葉で表現できない分「怒りやすくなったり」「落ち着きがなくなったり」「外に出て探そうとされる」などの行動が見られます。

そのため、認知症の人の生活を支えるためには「介護」だけでなく「家族の存在や力」が必要不可欠なのです。

このように、老人ホームに入居したとしても「家族との関係」は欠かすことができません。そこで、老人ホームを探す際には「家族関係を継続できる施設」や「継続することができる家族の家との距離」も大切になります。

認知症の症状や、親(または配偶者)の状態は人によって差があり、「本人の望む生活」にも大きく違いがあるはずです。また老人ホームにおいても、地域に多く隣接している場所では、「特色」や「入居条件」で差別化を図っています。

まとめ

たくさんの選択肢の中から家族だけで選ぶことは、とても困難ではありますが、ぜひ今回の「認知症の親・配偶者に合った老人ホームを選ぶ3つのポイント」を参考にしてみて下さい。

また、老人ホームを探す際には、家族だけで悩まれるのではなくケアマネジャーや、地域包括支援センター、介護施設に詳しい専門家に相談することをおすすめします。