家族でも判断できる要介護度の見極め基準

介護サービスを利用するには、「要介護認定」を受けて、介護が必要な状態であることを認めてもらわなければいけません。この要介護認定は、介護が必要になった時に自ら市区町村の窓口で、申請をすることで初めて受けることができます。

それでは、「介護が必要な時」とは、どのような状態になったときなのでしょうか?

例えば、80歳になったからといって、必ずしも介護が必要になるとは限りません。実際に、80歳を超えても、全く介護が要らない人もいますし、逆に60歳代の方でも、脳梗塞などの病気による後遺症で介護状態になる人もいます。

このように、人それぞれ状態も生活環境も違う中で、家族が「両親の介護が必要な時期」を見極めることは難しいのではないでしょうか。

そこで今回は、「家族でも判断できる要介護度の見極めポイント」について説明します。

「要介護・要支援認定」の判断基準

家族に介護が必要かどうかを見極める1つ目のポイントは、「要介護・要支援認定」の基準です。介護保険制度は、国民健康保険のように国の法律で定められた公的保険の一つです。そのため、「介護保険法」という法律において、認定に関する細かい内容も決められています。

例えば、介護保険法の「第1条(目的)」と「第2条(介護保険)」では、下記のような内容が書かれています。

(図1)家族でも判断できる要介護度の見極め基準
(図2)家族でも判断できる要介護度の見極め基準

つまり、介護保険では、介護状態の方に対して「どんなサービスも制限なく提供する」のではなく、「自立した生活が送れるように必要なサービスだけを提供する」ものなのです。さらに、公的な保険であるために「誰に対しても公正かつ公平」でなければいけません。

こうしたことからも、「要介護(要支援)認定」では、客観的で科学的な判断が求められます。

そこで、認定においては「要介護認定調査」「主治医の意見書」「コンピューターによる一次判定」「介護認定審査会において審査・判定」という4つのフィルターを通して、介護度が決められているのです。

また、介護認定の判定では「介護が必要になった病気」ではなく、あくまでも要介護状態の高齢者が「自立した生活を送るために必要な介護サービスの量」を計ります。

例えば、脳梗塞を起こした方であっても、後遺症が軽く杖などを使えば特に支障なく一人で生活できる方もいます。その一方で、体が丈夫なのにも関わらず、認知症によって的確な判断ができなくなり、一人での日常生活が困難で、施設に入居しなければいけない方もいます。

つまり、介護は病気や表面上だけでは見えない部分が多くあるのです。

このように、要介護(要支援)状態の区分を決める際には「実際の要介護状態から認定した介護の手間」を基準に判定されています。

「要支援」と「要介護」の違い

2つ目のポイントは、「要支援」と「要介護」の違いを知ることです。

要介護認定は、「家族が実際に介護をする状態にならないと申請できない」と思われている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。介護保険では、要介護状態の区分を細かく7段階に分けて設定されています。その中には、「介護」までは要らないけれど「支援が必要」という「要支援」も2段階含まれています。

介護保険では「介護が必要な状態」になる前に、介護サービスによる支援を受けて、要介護状態の防止や、要支援状態の「軽減」と「悪化を防止」するのも目的の一つとしています。

そのため、介護だけでなく「支援」の段階からサービスを取り入れることができるようになっています。ただ、「要支援」と「要介護」では受けられるサービスに違いがあります。

それでは、「要支援」と「要介護」状態では、受けられるサービスにどのような違いがあるのでしょうか。

介護の現場では、「ADL(日常生活動作)」と「IADL(手段的日常生活動作)」の2つの視点での見方があります。

日常生活動作とは、「起き上がり」や「歩行状態」「衣服の更衣」「入浴」「排泄」「食事」などの、人が日常生活を営むために最低限必要な動作のことを指します。一方、手段的日常動作とは「調理」や「掃除」「買い物」「金銭管理」「内服薬の管理」などの、手段を考えたり状況を判断したりしながら行う動作のことをいいます。

「要支援」の判定が出る人は、手段的日常動作において介護サービスによる支援が必要になり始めている状態の方が多いです。そして、「要介護」では、手段的日常生活動作に加えて、日常生活動作においても介護が必要になっている方が対象になります。

このように、「要支援」と「要介護」は「介護が必要な状態の高齢者が生活していく上で、どの動作に支障があるのか?」ということで違いがあります。さらに、支障のある部分を支援または介護するにあたって、「どれくらいの手間がかかるか?」によって細かく区分が分かれてくるのです。

つまり、介護認定は、支障がある動作の種類だけでなく、支障の程度も考慮した上で判定されます。

「要支援・要介護状態」の具体的な状態像

3つ目のポイントは、「要支援・要介護状態」の具体的な状態像を知ることです。

上記に述べたように「要支援」と「要介護」状態では、日常生活においてどの動作に支障があるのかで、違いを判断できます。しかし、そうはいっても、両親の状態が「要介護状態の区分」で、どの位置になるのかは分かりにくいものです。

実際、要支援・要介護状態は、「要支援1」「要支援2」「要介護1~5」と7段階に区分されています。そこで、次はそれぞれの状態を具体的に挙げていきながら確認していきたいと思います。

まず「要支援1・2」は、週に1度の買い物や掃除のサービスを受けることで、支障なく自立した生活が送れる状態の方です。

例えば、「排泄や入浴は一人で行えるが、膝(ひざ)や腰の痛みで買い物や掃除をすることができなくなっている」などの状態になります。

次に、「要介護1」の状態は、「歩行」や「洗身」「爪切り」「金銭管理」などの項目において介助が必要な方が主になります。具体的には、歩行状態に不安定さがあり、家で一人の入浴はできないため、デイサービスで「スタッフに入浴を見守ってもらう」「背中や足元は自分では洗いにくくスタッフに手伝ってもらう」などの介助を受けている方です。

要支援と要介護1の区別は難しく、判定によっては「要介護」の状態と思われる事例であっても、時として「要支援2」がでることもあります。身体的な面での判断はわかりやすいですが、特に認知症の人への認定は、場合によって困難になります。

そこでポイントになってくるのは、「薬や金銭管理」です。

例えば、「毎日の服薬の管理、また買い物や預貯金の保管などに支障があるか?」など、「対象者自身での薬や金銭管理ができるかできないか?」ということは、要支援2と要介護1を分けるポイントとなりやすいです。

要介護2は、「要介護1」の状態に加えて、「移動」「排尿」「排便」「衣服の着脱」の項目での介助が必要になります。

具体的には、脳梗塞の後遺症や認知症により、一人では衣服を着たり脱いだりできない状態です。特に、医師による認知症の診断があり、一人で生活することに支障がある方は「要介護2」程度の判定が出る傾向にあります。

要介護3は、「要介護2」の状態に加えて、「清潔面での介助が増える」ということが挙げられます。また、この段階になると「調理」や「買い物」「掃除」などの手段的生活動作も日常生活動作と共に能力が低下し、生活するためにはほぼ全面的な介助が必要になっている状態です。

そのため、要介護3の状態になると、自宅であっても長時間を一人で過ごすことができなくなります。

認知症の影響で一日の生活の流れが分からず、家族(介護者)の指示や介助がなくては生活できなかったり、身体的に車いすでの生活が中心になっていたりする方を想像すると、イメージしやすいのではないでしょうか。

要介護4では、「要介護3」の状態に「食事摂取」と「意思の伝達」の困難さが加わります。

具体的には、食事を食べる動作に支障があって、介護なしでは一人で食べることができなかったり、認知症により「自分の意思を決定する」または「相手に意思を伝達する」ことが難しくなったりしている状態です。

身体的にはあまり問題なく、一人で室内を歩くことのできる方であっても重度の認知症で相手の言葉が理解できなかったり、介助なしでは日常生活の動作方法がわからなかったりすると、要介護4と判定されることもあります。

最後に要介護5とは、「要介護4」より動作能力が低下し、介護なしでは日常生活がほぼ不可能な状態になります。さらに「自分の生年月日がわからない」「短期記憶の低下が見られている」「介助がないと寝返りがうてない」など、生活全般で介護が必要不可欠な状態といえます。例えば「寝たきり」の方などは、要介護5の判定が出るこが多いです。

以下に、要介護1以上の各区分において必要になる状態項目をまとめます。

(図3)家族でも判断できる要介護度の見極め基準
このように、具体的な例を挙げることで、「要支援・要介護度」におけるそれぞれの状態を想像することができます。

しかし、これらはあくまでイメージとなる状態像です。最初の項目で挙げたように、介護認定では「介護にかかる手間」の部分での判定が主になります。そのため、必ずしも家族が希望する「介護度」が結果として出るとは限りません。

つまり、「今の両親の状態がどの程度なのか?」を考える基準にはなりますが、実際に受ける介護区分の正確な判断は難しいです。こうしたことからも、家族が両親の生活に支障が出ていると思われた時は、とりあえず要介護認定の申請をしてみることもよいでしょう。

また、介護保険に関しては、ケアマネジャーやお住まいの役所、地域包括支援センターでも気軽に相談することができます。家族だけで悩まれず、相談できる場所を積極的に活用することをおすすめします。

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