両親の認知症が疑われた時にまず行うべき5つの行動

両親(または配偶者)が認知症と疑われた時、認知症は先が見えない病気であるため、誰でも不安になります。

このようなとき、あなたは「両親もしくは配偶者が認知症」という事実を受け入れることも大変であるため、「これから何をすべきなのか?」を的確に判断するのは困難です。しかし、認知症は「初期の段階での治療」や「周囲の人達がどのように関わるか」で、その後の進行が大きく変わってきます。

そこで今回は、「認知症を疑われた時にまず行うべき5つの行動」について説明します。

今の両親・配偶者の症状や生活を知る

1つ目は、今の両親・配偶者の症状や生活を知ることです。認知症を疑うということは、生活の上で何らかの支障があったり、本人の行動に変化が見られたりしているからだと思います。

今後、病院を受診する時や介護をしていく上で、本人の症状や生活の内容を客観的に見直し、まとめておくことはとても大切です。

そこで、箇条書きでもよいので、症状や生活状況を文章にまとめておくと、受診した際、主治医にも具体的に情報を伝えることができます

例えば、「人の名前が出てこない」や「同じこと(言葉)を何度も繰り返す」「曜日や時間の感覚がない」などの症状です。また、今の生活の中で「本人が困っていること」や「家族が困っていること」などもまとめておくと良いでしょう。

こうした家族が感じる症状は、医師が認知症の診断をする上で参考になります。さらに、生活に支障を及ぼしている症状を的確に医師へ伝えることができるため、生活で問題となっていることを解消するための適切な処方を受けることができます。

その他にも「今後、今の生活を継続していく上でどんな手助けが必要なのか?」ということや「本人の生活リズムや生活習慣」についてもまとめておくと役に立ちます。この2つの視点は、これから介護サービスを導入していく上で、サービス内容を選ぶ時に必要になってくるものです。

このように、両親や配偶者に対して認知症を疑った場合には、まずは症状や生活について、できる範囲でまとめましょう。

認知症の診断を受ける

2つ目は、認知症の診断を受けることです。認知症の疑いがあるだけでは、介護保険を利用する際に反映されません。介護保険のサービスを受けるためには、きちんと病院を受診し、医師による「認知症」の診断が必要になります。

認知症の診断を受ける病院は、認知症専門医が配置されている「脳神経外科」「もの忘れ外来」だけではなく、普段「かかりつけ医」として利用している内科でも可能です。認知症の人の中には、病院へ行くことに対して強い拒否を示す方もいます。そういう人でも、行きなれた「かかりつけ医」であれば拒まれることが少ないです。

認知症の診断を受けることは、認知症の人や家族の精神的な負担が大きくなる場合もあります。しかし、きちんと専門医にかかって症状を診てもらえば、内服薬などで症状の改善を図れる可能性があります。

まれに、家族が認知症と思っていても、異なる病気が原因で認知症状に似た行動が出ている場合もあります。

例えば、脱水や肺炎、うつ病などは、認知症と勘違いされやすい症状が出現します。さらに、認知症であっても「正常圧水頭症」のように、手術をすることで症状が改善する種類もあります。

一見同じように見える認知症ですが、原因によっていくつかの種類に分けられます。その違いによっては、そのときの対応や、今後必要となる対策も違ってきます。

こうしたことからも、認知症を疑った時には、きちんと医師による診断を受けることをおすすめします。

介護申請を行う

3つ目は、介護申請を行うことです。介護サービスを利用するためには、まず「介護認定」を受けなければいけません。現状を調査してもらい、介護が必要な状態であることを認めてもらうのです。

こうした介護認定を受けるには、お住まいの市区町村の窓口で申請を行います。

この申請の手続きは、「本人」だけでなく「家族」「代理人」「居宅介護支援事業所」などが代行することができます。また、申請には「要支援・介護認定申請書」や「介護保険被保険者証」などが必要になります。

そして、市区町村の窓口で申請をしてから認定の結果が出るまでに、約30日~60日の日数がかかります。つまり、早めに申請することで、介護サービスを早期に導入することができるのです。

既に述べたように、認知症を疑ったり、認知症と診断されたりするということは、生活していく上で何らかの支障が出ているはずです。また、今は大きな支障がなくても、今後必ず介護が必要になってきます。

認知症は現在の医療では、完治することはありません。進行の速さは人によって違いますが、確実に症状が進んでいく病気です。ただ、早期に発見して対処すれば、進行速度を抑えることは可能です。

そのため、認知症の悪化を防ぐためには、早期での対応が大切になります。

また、認知症の人の家族は、体力的にも精神的にもストレスを抱えやすい環境です。だからこそ、認知症の人を介護していく上では、家族だけで抱え込まないことが大切になります。

そして、主治医はもちろんのこと、地域の方や介護事業所など「相談できる場所」や「一緒に介護を支えてくれるような信頼できる仲間作り」が重要になってきます。そのためにも、認知症介護においては、早い段階での介護サービスの導入をおすすめします。

今後の見通しを立てる

4つ目は、今後の見通しを立てることです。認知症介護は、短くて5年、長い人では10年~20年以上になることもあります。認知症に限らず、介護は子育てとは違い、先が見えないことが特徴です。

だからこそ、家族も不安になりやすく、負担も大きくなります。

両親が認知症で介護が必要になった場合、両親が一人暮らしであっても同居であっても、今後のことを考えておくことが大切になります。たとえ一緒に住んでいても、家族には仕事や自分たちの生活があるため、両親の介護に多くの時間を費やすことは難しくなります。

また、認知症の人にとって生活環境の変化は、症状の悪化につながることもあります。そのため、まずは住み慣れた家での生活を中心に考えていくことをおすすめします。

そして、在宅で生活を継続する場合、介護サービスの利用が必要になってきます。一言で在宅サービスといっても、通所介護(デイサービス)や短期入所生活介護(ショートステイ)、訪問介護(ヘルパー)などいくつか種類があります。

また、本人の生活に合わせて、「どのサービスを」「どの程度利用するのか?」などについても考えなければいけません。

こうしたことからも、さまざまなことを考慮した上で、その人に合った在宅サービスを選択することが大切です。

もちろん、認知症の進行によって、先々では在宅での介護が難しくなることもあります。そのため、初期の段階で施設での介護も検討しておくことも大切です。そして、入居する施設は「認知症の人を受け入れてくれること」や「家族が面会に行きやすい立地であること」など、考慮する条件をきちんとまとめてから探すことが必要です。

中には、最期まで在宅で過ごすことのできる認知症の人もいます。しかし、ほとんどの場合は、認知症の進行と共にいずれは施設への入居を決断しなければいけない時がやってきます。

いつ施設に入居するかは、「家族がどこまで認知症の両親や配偶者を見ることができるのか?」ということがカギになります。

そのため、すぐではなくても「どこまで在宅でみていけるのか?」や「仕事との両立はできるのか?」などについて、家族で話し合っておくことが重要です。そして、介護を家族の一人に抱えさせるのではなく、「誰が何を担当するのか?」をきちんと決めて負担を分散させることも必要です。

「認知症」を知り、両親・配偶者のことを知る

5つ目は、「認知症」という病気や、両親・配偶者のこれまでの生活を知ることです。

既に述べたように、一言で「認知症」といっても、原因によっていくつかの種類に分けることができます。当然ながら、種類によって症状も違います。そして、認知症介護では、周りの人達の対応も症状を悪化させる原因になることがあります。

例えば、「認知症になった母に、火を使うことは危険だからと食事作りをやめさせた」という話はよく聞かれます。

しかし、実はこの対応では認知症の症状を悪化させることになりかねません。

こうした対応を行うと、認知症の人は「自分は何もできなくなってしまった」と、自身の殻に閉じこもってしまう可能性があります。さらに、今自分で行っていることに対しても自信がなくなり、不安で今までできていたこともできなくなってしまうのです。

安全のために何もさせないことが、介護ではありません。介護を行う上では、本人のできる事とできない事をしっかりと見極めることが大切になります。その上で、本人の力を最大限に生かし、生活の中で何らかの役割を担ってもらうことが重要なのです。

つまり、「人の役に立つ」役割を、継続させることが認知症の進行を遅らせる秘訣だといえます。

以前は、認知症になると何も分からなくなると言われていました。しかし、今は「認知症になってもその人らしさはなくならない」ということが分かってきています。そのため、認知症ケアも少しずつ変化してきているのです。

例えば、「その人らしさ」を重視したケアを行っている事業所も多くあります。そうした事業所では、「認知症の人がどんな人生を歩んできたのか」「今までの職歴」「小さい頃の呼び名」「若いころの趣味」「大切な物」などを、事前に本人や家族に聞き、ケアに生かしています。

皆さんは両親や配偶者の幼いころや、細かな情報を知っているでしょうか。おそらく、ほとんどの人は両親や配偶者に関するそうした情報を把握していないはずです。

実際に、生まれた地域くらいは知っていても、幼少期のエピソードなどを知っている家族は、少ないのが現状です。

そこで、本人がまだしっかりと受け答えができる間に、「生活歴」や「趣向」「人生観」を聞いておくことが大切です。さらに、過去のことだけでなく、将来のことも本人の意向を確認することをおすすめします。

自分の思いを伝えることが出来る間に「何を大切に生活していきたいのか?」や「施設に入ることに対しての考え」「最期を迎える場所の希望」などを聞いておけば、今後の介護に役立ちます。なぜなら、認知症が進行していくと、自分の思いを伝えたくても、伝えることができにくくなってしまうからです。

認知症になり、介護が必要な状態になっても「その人らしく、暮らし続ける」ことが大切です。それを実現するためにも、家族は「その人らしさ」を知っておく必要があります。

こうしたことからも、両親もしくは配偶者に対して認知症を発症した場合には、まだ両親や配偶者が思いを伝えることができる間に、たくさんの「その人らしさ」を探ってください。

「認知症介護は大変だ」という情報ばかりが、世間には流れています。確かに、自分の思いが伝わらず悩まれている家族もたくさんおられます。ですが、一番苦しんでいるのは、認知症の人自身です。

ぜひ以上に挙げた、「認知症を疑われた時にまず行うべき5つの行動」を参考にして、両親もしくは配偶者とこれからのことを話し合ってみて下さい。

また、認知症介護で一番大切なことは、家族だけで抱えこまないことです。そのため、専門家など、介護に関する相談ができる場所をつくり、両親や配偶者と笑顔で過ごせる環境を整えて下さい。

問い合わせボタン500