離れて暮らす親の生活が心配になったとき親と同居するべきか?

日本では核家族化が進み、高齢になった親のみの世帯が多くなっています。高齢であっても、夫婦一緒であれば少しは安心感がありますが、一人親での単独世帯になった場合は家族の不安も大きくなるのではないでしょうか。

また、親が元気であったとしても、転倒や急な体調の変化がいつ起こるかわからないため、家族はいつも気にかけなければいけません。では、親と同居すれば問題が解決するのでしょうか。

たとえ親と同居できたとしても、子供には仕事があり、結局は親が一人で過ごす時間ができてしまいます。

また日本では、親の生活に不安があったり介護が必要になったりした場合には「子供が親を引き取って世話をするべきだ」という風習が根強くありました。そのため、今でも親に介護が必要になったら「子供と同居する」または「施設に入れる」という2択しかないと、思われている方も多いのではないでしょうか。

介護保険制度が確立されてからは「介護が必要になっても住み慣れた地域でその人らしく生活を続ける」という目標が掲げられ、様々なサービスや支援体制が整えられてきています。

現に、介護が必要になった方であっても、子供と同居せず、施設にも入らず一人暮らしを続けている方は少なからずおられます。

このようなことからも、離れて暮らす親の一人暮らしが不安になった時は「親の心身の状態」や「家族の状況」「住む地域の社会資源」という視点からも家族で冷静に考えて、これからの生活を決めることが大切です。

そして、何よりも親自身が「これからどこで生活したいのか?」「どう過ごしていきたいのか?」という点が重要になります。

そこで今回は、「親との同居を考えた時にするべき3つのこと」をご紹介します。

同居した場合と離れて暮らした場合を比較する

まずは、親と同居した時と離れて暮らした場合の、それぞれのメリットやデメリットを比較してみることが必要です。

親と同居する場合

親と同居するためには、親もしくは子供のどちらかが家を住み替えることになります。しかし、子供には仕事や家族の学校などもあって、実際に住み替えるには難しく、大半は親が住み替えるケースが多いようです。

しかし、親が住み替えたとしても、新たに親の生活スペースを確保する必要があります。また、今まで親が住んでいた家の荷物を整理したり処分したり、場合によっては家自体を処分しなければいけないというデメリットがあるのです。

その他にも、親の生活環境が変化することで、今まで親が自分で出来ていたことも、環境の変化に追いついていけずにできなくなってしまうことがあります。

さらに、環境の変化で精神的な不安と混乱が起こることによって、認知機能の悪化や病気の症状を進行させてしまう可能性もあるのです。これを「リロケーションダメージ」と言います。

例えば、親を子供の家に呼び寄せたことで、急に物忘れがひどくなったり被害妄想が出たりというように認知症状がでる方もいるのです。

一方、同居することによって良いこともあります。一番のメリットは、一緒に生活することで親にとっても、子供にとっても安心感が増えることです。

一緒に過ごす時間が増えれば体調の変化にも気づきやすくなりますし、もしもの時にも早期に対応することができます。さらに、親が家事を手伝ってくれることで、家族の家事負担も減らすことができるというメリットもあるのです。

離れて暮らす場合

反対に親と離れて暮らした場合の一番のデメリットは、いざという時への対応に不安が残るということです。離れていてもすぐに駆けつけることのできる距離であれば、こまめに会いに行くこともできます。しかし、簡単に会いに行ける距離ではないケースでは、常に親の安否が気がかりとなります。

また、離れている親の様子をこまめに見に行くということは、体力的にも経済的にも負担がかかることです。例えば、親の自宅に週に1度会いに行くだけであっても、自分の仕事の休みを潰すことになります。さらに、往復の交通費もかかります。

このように、離れて暮らす親を支えるためには、自分の時間やお金を使わなければ会いに行くこともできず、結果的にそれらが子供の負担にもなりかねないのです。

ただ、親と離れて暮らすことは、悪いことばかりではありません。例えば、親と別々に暮らすことで、お互いの生活ペースを保つことができまし、精神的にも一定の距離を保つことができます。

他人のことなら気にならないのに、同じ事でも自分の親には、つい口に出して文句を言ってしまうことはないでしょうか。同居すると、親子だからこそ言い過ぎてしまう場面が必ず生まれます。

離れて暮らしているからこそ、親と会っている時だけは思いやりの心が保てたり我慢できたりするものです。

また親自身も、子供と離れて一人で暮らしているからこそ「しっかり一人で生活しなければいけない」という思いになり、場合によってはその自立心が認知症や介護予防にもつながるのです。

このように、親と「同居した場合」「離れて暮らした場合」どちらにも、メリットとデメリットがあります。ただこれらは、家族の生活環境や親の状況、親子の関係性ごとの違いがあるため自分の状況に当てはめながら整理して比較することが大切です。

以下に、同居した場合と離れて暮らす場合でのメリット・デメリットをまとめます。

メリット デメリット
同居の場合 ・一人暮らしの不安がない
・経済的(交通費、家賃など)な負担が減る
・家事を分担できる
・住む場所の確保が必要荷物や家の処分が必要
・お互いの生活ペースが乱れる
・親の環境の変化による病気の悪化
(リノベーションダメージ)
離れて暮らす場合 ・自分のペースで生活ができる
・気持ちの切り替えができる
(思いやりの気持ちを保てる)
・離れているからこそ自立心が保てる
・他の家族との関係性
・いざという時が不安
・体力的、経済的な負担がある
・親と離れて暮らしていることに対しての罪悪感がある

シミュレーションする

親と同居した時と離れて暮らした場合の、メリットやデメリットを比較するだけではなくシュミレーションすることが重要です。なぜなら、実際に親が住み替えてしまった後に、また環境を変えることはとても難しく、親子共に精神的負担が大きくなるからです。

そこで、同居した時と離れて暮らす場合の両方をシュミレーションしてみることをお薦めします。ただ、一日の生活内容をシュミレーションするのではなく、親の周りにある社会資源を調べることも大切です。

たとえ、子供の家に住み替えたことで親の安否は確認できるようになったとしても、親に友人もできずに一人で家に閉じこもってしまっては同居した意味がありません。住み慣れた地域で続けていた趣味や楽しみも継続できなければ、親が介護状態になるのは時間の問題です。

ただ単に、親の生活の安全を考えるだけでなく、これからの生き方についても考える必要があります。

例えば、「地域のカルチャーセンターに親の好みの教室があるのか?」「近所で親の好きなグランドゴルフの活動があるのか?」「親が行きやすい場所にスーパーがあるのか?」というように具体的に調べることが大切です。

親にとって一番不安なことは、自分の知り合いのいない地域で、新たな友人ができるかどうかではないでしょうか。加齢に伴い、人付き合いだけでも億劫になる中で、新しく友人を作ることは簡単なことではありません。そのため、仲間を作りやすい環境があるかどうかは、とても重要なことです。

また、同居するケースでは他の家族との関係性も良好でなければいけません。実の子供であれば我慢できることも、義理の間柄では関係性を継続させるのが難しいこともあります。

例えば、1週間程度子供の家に泊まってみることで、お互いに生活ペースや食生活の違いをシミュレーションしてみるのも良いでしょう。

一方で離れて暮らす場合には、安否確認と経済的な面でのシミュレーションが大切になります。

例えば、安否確認では、「親の住む地域のボランティアや親の友人などの協力を得られるかどうか?」「介護サービスや緊急通報システムなどの利用ができるのか?」という点を確認することが必要です。なぜなら、いざという時に親を助けてくれるのは、自分(子供)よりも親の近くにいる人になるからです。

また、「実際にどれくらいの頻度で親の安否を確認してもらえるのか?」「自分がどれくらいの頻度で親元に足を運ぶ必要があるのか?」についてもシミュレーションする必要があります。さらに、それらにかかる費用も重要です。

これから、親が介護状態になれば、介護費用もかかり親の年金だけでは賄えなくなる可能性が高くなります。そのため、経済的な面もある程度予測を立てておくことをお薦めします。

このように、親と同居する場合も離れて暮らす場合であっても、事前にシュミレーションすることが大切です。

住み慣れた地域を離れるケースでは、特に親への精神的な負担を考えておくことが必要になります。慣れ親しんだ場所を離れるということだけでも、親は孤独感を感じやすくなるため、親を支える家族は親の精神面への配慮が最も重要になります。

将来のことも考えて選択する

今は親も元気で一人暮らしできたとしても、加齢に伴い必ず介護が必要になる時が訪れます。これはたとえ同居した場合でも同じです。仕事や自分自身の生活がある中で、介護が必要になった親を在宅介護し続けることは容易なことではありません。

いずれは、「施設に入居することが必要になる時がやってくる」ということを考えておくことが大切です。

例えば、「どこまで在宅で介護ができるのか?」や「介護が必要になった時に他の親族はどこまで協力してくれるのか?」など具体的に考える必要があります。

親の将来のことは一人で決めるのではなくて、家族全員で足並みをそろえて選択していくことがもっとも重要になります。なぜなら、決めた後から周りの兄弟や親族に反対されて、思うように事が運ばなくなってしまうこともあるからです。

また、離れて暮らしていたケースでは施設を探す際に、どの地域の施設を見つけるのかが問題になります。具体的には、「親の住み慣れた地域で探すのか?」それとも「子供が通いやすいように子供の住む地域から選ぶのか?」ということです。

介護が必要な状態になってからの親の住み替えは、元気な時に比べて精神的負担も大きくなる場合があります。そのため、今は自立した生活を送りながら、介護が必要になっても住み続けれる施設を探される高齢者の方も多いのが現状です。

このように、将来のことも視野に入れながら今の生活を見直して、「親と同居するべきなのか?」「離れて暮らしながら支えるべきなのか?」を考える必要があります。

今回は、「親との同居を考えた時にするべき3つのこと」をお伝えしましたが、何よりも重要なことは親自身の思いです。親の思いを訊かずに決めてしまっては、一緒に住むことも拒まれて進めることができません。

そのため、親が元気な内に「どこで暮らしたいのか?」「どのように過ごしていきたいのか?」ということを尋ねておく必要があります。

その上で、今回の「親との同居を考えた時にするべき3つのこと」を参考に家族で話し合ってみてください。また、家族だけではなくケアマネージャーや地域包括支援センターなどにも相談することをお薦めします。