加齢に伴って足腰に痛みが生じ、外出することに対して億劫になる人はたくさんいます。だからといって、毎日外出もせずに家でじっとしていては、足腰もますます弱っていき、一人では歩けない状態になってしまう危険性があるのです。
また、外に出ることもなくずっと家にいては他者に会うこともなく、身だしなみにも気を使わなくなり、毎日、何の刺激もない生活状態になります。このような環境では、認知症を患いやすくなってしまいます。
つまり、「親が毎日家でじっとしている」ということは、高い確率で要介護状態を招くといえます。
しかし、そのような環境であっても、家族の関わり方次第では、要介護状態になることを防ぐこともできるのです。
そこで今回は、介護予防に必要な知識として、「家でじっとしている親との3つの関わり方」についてお伝えします。
原因を探る
家でじっとしている親が介護状態になることを防ぐためには、初めに親が自宅から出ようとしない原因を探ることが重要になります。そのとき、親の外出する機会がいつごろから減ったかを思い出しながら原因を見つけることがポイントになります。そうすることで、外出を妨げている理由を明確に探しだすことができます。
親自身の中に問題がある
例えば、定年退職してから、家に居る時間が多くなった場合は、外に出る理由もなくなり家の中以外での役割や趣味などの楽しみがないことに原因があるといえます。
また、夫(または妻)を亡くした頃から生活に変化が見られているケースでは、パートナーがいなくなったことが原因で気力をなくしていると考えられるのです。
しかし、趣味もない親に対して、「たまには外に行って来たら?」と声をかけても、親はその場しのぎに散歩へ行く程度ですぐに帰って来てしまいます。それでは、問題の解決には至りません。
その上、「自分は邪魔者なのだろうか?」とマイナス的に受け止めてしまい、家族関係を悪くしてしまう可能性があるのです。
そのため、「趣味や家以外での役割の消失」「親自身の精神的不安」が原因である場合は、家族は焦らずに、本人へ様々なアプローチを根気強くしていくことが大切になります。
親の周りの環境に原因がある
また一方で、原因が親自身にあるのではなくて、周りの環境に原因がある場合は早急に家族が対応することが必要です。
例えば、頻繁に買い物に出かけていた親が、家に閉じこもるようになった場合にはどんな原因が考えられるでしょうか。
加齢に伴って足腰が弱り、外出が億劫になったとも考えられます。しかし、その他にも「親の周りの環境に変化はなかったかどうか?」を確認することが重要です。
具体的には、「親がいつも買い物に行くお店が閉店していないか?」「買い物に行くために親が利用していた交通手段がなくなってはいないか?」「買い物先やバスなどの利用方法が複雑に変わっていないか?」ということを確かめます。
なぜなら、このような環境の変化に親が上手く対応することができず、外出を躊躇している可能性があるからです。
昔ながらの商店街や小売店が減っていくことで、歩いて買い物に行けていた高齢者の行き場がなくなり「買い物難民」になるという話はよく聞かれます。また、お店の閉店だけでなく、高齢になった親にとって、交通手段や買い物の仕方が複雑になっていることが多くあるのです。
例えば、バスや電車に乗るためにICカードを使ったり、スーパーの支払いがカードになったり、セルフレジが導入されていたりするなども大きな変化になります。
単に、カードやセルフレジを使わなければいいだけのことのように思われますが、高齢である親にとっては環境の変化についていけないということだけでも、足が遠のく原因になるのです。
そして、このような環境変化が原因で外出できなくなっている場合には、早期に家族が対応することで、また進んで外出できるようになります。なぜなら、このようなケースでは、親にとっての不安を解消すれば外出できるだけの体力は保持できているからです。
具体的な解決策としては、親とバスに乗って買い物に行き、「以前の環境と違う点」や「どのように利用すればよいのか?」を親に理解してもらえるまで一緒にやり続けます。そうすることで、親も環境の変化に対応できるようになり、自信や安心感を持つことができ、また一人でも気軽に買い物に行けるようになるのです。
このように、親が外出しなくなった原因を探ることによって、家族がどのように手助けするべきなのかが見えてきます。
親の周りの社会資源を調べる
親の引きこもり状態を予防する際に重要なものとして、2つ目に親の周りの社会資源を調べることが挙げられます。
介護予防のために親を家から誘い出そうと思っても、「地域にどのような社会資源があるのか?」という知識がないと連れ出す場所に困ります。そこで、親の周りの社会資源を知っておく必要があるのです。
社会資源とは
親の周りの社会資源には、「フォーマルな社会資源」と「インフォーマルな社会資源」があります。
フォーマルな社会資源とは、公的なサービスや対価を支払って利用するものが主になります。具体的には、「デイサービス(通所介護)」「デイケア(通所リハビリ)」などの介護サービスやカルチャースクール、病院などがあります。
一方のインフォーマルな社会資源とは、親の友人やボランティア団体、グランドゴルフクラブ、家族などのマンパワーと呼ばれるものです。
社会資源は、「親の住む地域の状況」や「親の今までの地域との関わり方」によって差がでます。
例えば、マンションばかりの都心部では近隣同士の交流も少なく、お互いの生活を気にかけることは難しくなります。一方、昔からの長屋などでは自然と協力し合う仕組みが継続されています。
このように地域環境によって社会資源のあり方に違いが見られるのです。また、市区町村によって介護サービスの種類や数にも差があります。
社会資源の調べ方
インフォーマルな社会資源は、お住まいの市区町村や地域包括支援センター、社会福祉協議会に問い合わせると情報を集めやすいです。特に介護サービスに関しては、地域包括支援センターや役所に問い合わせすることで、サービスの内容や仕組みまで情報を得ることができるはずです。
また、カルチャースクールや地域のボランティア活動、グランドゴルフの情報に関しては市民センターなどに行くと知ることができます。
ただ、かかりつけの病院や親の友人などの情報は、普段から親の生活に関心を持っていなければ得られない情報です。
そこで、親が元気な内から親の住む地域の友人やボランティアの方と面識を持っておくことが大切になります。特に一人暮らしの親の場合は、家族だけでは対応できずに近所の方や地域のボランティアの力を借りなければいけないこともあるため、事前に調べておくことをお薦めします。
親の状態に合った社会資源を選ぶ
家でじっとしている親との関わり方で重要な3つ目のポイントは、親の状態に合わせて社会資源を選択して利用することです。
例えば、夫(または妻)を亡くして気力を無くしている親に対して、いきなりカルチャーセンターを勧めても拒まれるのではないでしょうか。
まずは、親の気持ちに寄り添い、家族と一緒に外出していくことから始める必要があります。
また、定年退職した親に対して介護サービスや介護予防という名の付く場所への参加を勧めても「自分を年寄り扱いして!」と拒否されることが多いです。
そのため、「地域のカルチャーセンター」や「一般の人も利用しているジムで高齢になった方を対象とした教室」など、一見「介護予防とは見られないような社会資源」を活用して親に勧めると上手くいくこともあります。
さらに、退職したばかりの親であれば、まだ体力も気力も十分にあるため「ボランティア活動」や「人材シルバーセンター」などの活動に参加することもできるはずです。しかし、このような活動に1人で参加することは心細いと感じる場合があるため、まずは地域の行事に参加することで、実際に活動をされている方と面識を持つことから始めるという方法もあります。
これらは、親だけではなかなか動き出すことが困難な場合が多いため、家族が下調べをしたり、一緒に参加したりするなどの協力が必要です。最初のきっかけさえつかめば、親も安心感が出て一人でも外出しやすい環境になります。
最初は外出することが難しい場合もあるかもしれませんが、家族や地域の人が関わり続けることで何かしらの変化が生まれてくるはずです。また、誰かが自分に会いに来るとなれば、身なりをきちんとしたり生活にもハリが生まれたりして生活状況は変化していきます。
このように、家にじっとしている親に対して、家族は外に出るように言葉をかけるだけでなく、実際に一緒に動くことが大切です。そして、まずは親の身になって、「何が原因で家に閉じこもっているのか」を考えることで解決方法も出やすくなり、親の思いも理解できます。
ぜひ今回の「家でじっとしている親との3つの関わり方」を参考に家族で話されてみて下さい。