誰もが、親には「いつまでも元気でいてほしい」と思いがちです。そして、この「元気」の中には、親の身体的な健康と合わせて「自立した生活ができる」ということも含まれているのではないでしょうか?
介護保険においては、要支援(介護予防)状態から介護サービスを利用して、介護状態になることを防ぐ為の仕組みがあります。ただ、要介護状態ではないといっても要支援である場合には、生活の中ですでに誰かの手を必要としているのです。
確かに、早期に介護サービスを利用することで、要支援状態に留めることも大切になります。しかし、それでは本当の意味での「介護予防」にはならないのではないでしょうか。
つまり、親を介護状態にさせない為には「要支援状態になる前の段階での取り組み」が最も重要なのです。
ただそうはいっても、一人での生活に問題がない親は、介護保険制度の対象にもなりませんし、支援しなければいけない対象としても行政に名前は挙がりません。だからこそ、要支援状態にならないようにするためには「親の生活を一番よくわかっている家族の力」がとても重要なのです。
そこで今回は、「親を介護状態にさせない為に家族ができること」についてお伝えします。
親の生活を見直す
親を介護状態にさせない為に家族ができることの1つ目は、親の生活を見直すことです。
多くの方は「介護は突然やってくる」というように思われているかもしれません。しかし実際には、実は誰でも介護状態になる人を見分けることができます。なぜなら、突然の病気が原因である場合以外においては、「その方の生活習慣を見れば将来の姿が想像できる」からです。
例えば、70歳を過ぎた母親が、家で一日中テレビを見て過ごしていたら、家族は「お母さんはこのままじゃ認知症になるんじゃないかしら?」と思うのではないでしょうか。そして、何年後かには想像していた通りに、「母親が認知症になったり」「足腰が弱り、転倒して骨折したり」というように介護状態になる場合が多くあります。
その一方で、70歳を過ぎても毎日家族や地域のお世話役をして忙しくしていたり、友人とよく外出したりする母親ならば、家族も「お母さんは元気に長生きしそう」と思うはずです。
このように、家族も親の生活を見ながら将来の姿を想像することができます。そして、多くの場合が想像通りに親は歳を重ねていきます。つまり、親が介護状態になるかどうかは「定年を迎えた頃からの生活習慣」をみることで、ある程度予想がつくのです。
そのため、家族が「認知症になってほしくない」「病気になってほしくない」と思うならば、親が65歳を過ぎた頃から一緒に生活を見直すことが大切になります。
家族の目を親に向ける
親を介護状態にさせない為に家族ができることの2つ目は、家族の目を親に向けることです。
子供のイメージの中には、「親はいつまでも変わらず元気なままで、しっかりしている」という思い込みがあります。しかし、「歳を重ねる」ということは、「体も心も少しずつ弱くなっていく」ということなのです。また、弱くなることによって、できなくなることも少しずつ増えていき、誰かの助けを必要とするようになります。
今の現状を理解して受け止める
そのため、家族がまずするべきことは、「親に目を向け、今の状態をよく知る」ということです。そして、親の今の状態を受け止めることがとても大切です。
例えば、親にいつまでも元気で過ごしてほしいと思っていても、実際に親が外出に億劫になっていることに気づけず放置してしまうことも少なくありません。そうなると、結果的に足腰が弱り一人では生活できなくなってしまいます。
その一方で、親が外出に対して負担を感じている時に、「一緒に買い物に出るようにする」などの早目な対応を行うことによって、元気に過ごせる期間を長くすることが可能なのです。
役割を作る
また家族によっては、親を大切にするあまり「何もさせない」という場合もあります。ただ、「親に元気に過ごしてもらう」という面では、こうした気遣いは逆効果になります。
なぜなら、親に何もさせないということは、「親のできる力」までも奪ってしまうことになるからです。
そこで、家族の中で「親の役割を作ること」が大切になります。年寄りだからと端によけるのではなく、家事をやってもらうなど「親ができること」に目を向けて、家族の中心になって働いてもらうことが必要なのです。
そうすることで、親は生活の中でのやりがい(生きがい)を持ち続けることができます。そして、家族にとっても親が元気で居続けてくれるという好循環になります。
こまめに目を向ける
しかし、親も歳をとり、一人ではできなくなってしまうことが出てくるため、いつかは家族の支えが必要になるはずです。特に、一人暮らしの親は家族の気づかないところで生活の負担を抱えている場合が多くあります。そのため、家族がこまめに目を向けることが大切になるのです。
例えば、歳を重ねれば、誰もが腰を痛めたり足の筋力が弱くなったりして、家の中のわずかな段差につまずくことがあります。
実際に、「昼間は気を付けて歩くようにしていたが、夜中にトイレに起きて段差につまずき、転倒して骨折したことで一人暮らしが難しくなった」という事例はたくさんあります。この場合、家中の段差をなくすのではなく、夜中に通る危険な場所だけでも段差を取り除くことによって転倒を防ぐことができたはずです。
このように、歳を重ねていく親に目を向けることによって、「親にとって何が負担になっているのか?」「親が生活していく上で危険になっている所はどこなのか?」「親自身にできることは何なのか?」ということを知ることができます。
そして、こうした現状を把握した上で、親が元気に過ごすためには「今どのような手助けが必要なのか?」「どのように環境を調整すればいいのか?」という観点から考えることが大切です。
なによりも、家族の目が親に向いているということは、親にとって一番の安心感にもつながります。
親との関係を良好にしておく
親を介護状態にさせない為に家族ができることの3つ目は、親との関係を良好にしておくことです。関係性が良好でなければ、いくら家族がアドバイスをしても聞き入れてもらえない可能性があります。
例えば、親の生活習慣を改善するために、「地域の活動に参加してみたら?」「運動を日課にしてみたら?」と勧めても、家族のアドバイスを聞き入れてもらえない状態では何の意味もありません。
また、親とこまめに話すような関係性がなければ、親の生活も詳しく知ることができないのです。
だからこそ、日頃から親との良好な関係を築いておく必要があります。しかし、離れて暮らす親の家に、こまめに出向くことは容易ではありませんし、同居の親との関係性を良好に保つことも難しいのが現状です。
毎日声をかける
そこで大切なのが「なにか特別なことをする」というのではなく「毎日声をかける(電話をする)」など小さな積み重ねになります。
具体的には、毎晩「今日は何か変わったことなかった?」と一言尋ねるだけでいいのです。そうすることで、親の生活の小さな変化に気づけたり、親との信頼関係ができたり、何か困ったことがあった時にもすぐに連絡してくれるようになります。
特に、一人暮らしの親は「家族に心配をかけたくない」という気持ちが強く、たまに会いに来た家族には無理をしてでも元気な姿を見せようとする方ばかりです。だからこそ、日頃からこまめに連絡を取り、家族が「いつでも頼ってもらえる存在になる」ことが大切になります。
親と交流がある人との関係性を作っておく
また、一人暮らしの親の場合は、親が普段から交流のある地域の方や友人とも良好な関係を築いておくとよいです。なぜなら、離れて暮らす親の緊急時には家族の代わりに、地域の人や友人の助けを必要とするときがあるからです。「遠くの親戚より近くの他人」というように、いざという時に助けてくれるのは身近な人になります。
そして、親との信頼関係ができていないと、介護が必要になった時にも親を説得することができず、介護サービスが利用できずに家族の負担が大きくなることもあるのです。
こうしたことからも、日頃から親との関係を密にすることで家族が親に頼られる存在になって、良好な関係を築いておくことが大切になります。
一見すると、元気なように見える親も、歳を重ねて生活の中に負担を抱えていることが多く、家族の目に見えるように顕在化していないだけなのです。そのため、家族が気づかない内に、生活状態が悪化して介護が必要になってしまう場合があります。だからこそ、親を介護状態にさせない為には、親が元気な内に家族がどのように関わっていくのかが重要になるのです。
今回の「親を介護状態にさせない為に家族ができること」を参考にして、ぜひ「親の生活」や「親と家族の関係性」について考えてみて下さい。