身体の障がいにあった訪問リハビリテーションの選び方

介護保険における訪問リハビリテーションは、身体に障がいを持った利用者(介護サービスを使う人)が在宅で自立した生活が送れるようにするための支援(リハビリ)です。

ただ、一言で「障がい」といっても、その状況は人それぞれ違います。

近年、脳梗塞の後遺症で体の半身に運動や感覚のマヒが生じた人が、運動機能を回復させるためにリハビリを求めるケースは多くなっています。

そのような人に対しては、ストレッチや動作訓練などを通して、体や動きやすくなるようなリハビリを行います。

その一方で、認知症の影響で生活に必要な行為(料理や洗濯)の手順がわからなくなる人も増えています。こうしたときは、実際の生活場面で「リハビリスタッフと一緒に料理を行う」といった支援などが必要になります。

このように、利用者の障がい内容によって、リハビリ方法も変わります。

今回は「身体の障がいにあった訪問リハビリテーションの選び方」について解説します。

「成育歴」や「生活歴」から利用者の本音を探る

訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)を導入するとき、はじめに考えておかなければならないのが「リハビリをする目的」です。

一般的には、「歩行の訓練や、固まった関節を柔らかくする訓練のことをリハビリ」というように考えている人は多いです。しかし、身体の機能を回復させることだけを目的としたリハビリでは、長く続かないケースがよくあります。

なぜなら、そういったリハビリが利用者の達成したい目標と食い違っていることがあるためです。

例えば、「ダイエットをして体を引き締めたい」と考えている20代の男性がいると仮定します。この男性は、ただ単にダイエットをすることが目的なのでしょうか?

この男性が自分の体を引き締めたいと思った理由は、「好意を寄せている異性を振り向かせたい」と考えたからかもしれません。もしくは、小さなお子さんがいる父親の立場であれば、「子供に自分(男性)のカッコいい姿を見せたい」と思ったからかもしれません。

つまり、この男性が「口に出す目的」と「頭で考えている目的(目標)」が違う可能性があるということです。

それでは、障がいを持った利用者が行うリハビリの目的とは、どのように考えられているのでしょうか?

基本的にはどのような対象者であっても、リハビリの目的は「その人らしさを取り戻すこと」にあります。その人らしくとは、障がいを持つ前の「利用者のやりたいことが自由にできる」という状態を意味しています。

利用者が頭で考えている、「リハビリに対する本当の目的(目標)」を知ることで、よりスムーズにリハビリを進めることができるようになります。

例えば、「一人で買い物に行って、家族のために料理が作れるようになりたい」というように目的を明確にすることで、利用者のリハビリの意欲は高まります。その結果、リハビリのメニューも具体的(歩行訓練や手指の訓練)になってくるため、モチベーションを落とさずに継続することができます。

こうしたことから、リハビリを行うときは、利用者の要望をきちんと聞き取りながら目標を導き出す必要があります。

そのためには、利用者が「どこで生まれ、どのように育ってきたのか?」、また「学校を卒業してから現在に至るまで、どのように過ごしてきたのか?」といった情報を整理することが大切です。

そして、家族が利用者に「どういったリハビリを希望するのか」という質問を投げかけるときのポイントは、利用者の回答に対して「なぜ、そう答えたのか?」と考えるクセをつけることです。

例えば、脳梗塞で右半身にマヒが残っている利用者が「リハビリをして、一人で歩けるようになりたい」と家族に訴えたとします。そのとき、家族は利用者に対して、「なぜ、一人で歩けるようになりたいの?」というように質問をしてみます。

すると、利用者は一人で歩けるようになりたい理由(一人で買い物に行きたいなど)を話してくれます。そして、利用者への質問をさらに続けます。

家族はもう一度「なぜ、一人で買い物に行きたいの?買い物なら、私(家族)がするから大丈夫よ!」と聞いてみます。そうすると利用者は、「誰(家族)にも迷惑をかけずに自由に買い物に行きたいの」という話をするかもしれません。

このように、リハビリの目的に関する質問を繰り返すことで、利用者の本音を探ることができます。そうすることで、利用者のリハビリに対する目標などが導き出せるようになります。

リハビリの目的を基に専門職を探す

リハビリの目的が定まったところで、次は「具体的にどのような訓練が利用者にとって必要か」ということを考える必要があります。

一言で「リハビリ」といっても、その支援ができる専門家は主に「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」の3職種に分かれます。そして、この3職種はそれぞれ専門分野(強み)が違うため、当然ながら利用者に必要なリハビリの内容によって、依頼する専門家は異なります。

まずは「理学療法士」が行うリハビリから順番に説明していきます。

理学療法士は「座る」「立つ」などの基本的な動作ができるように、身体の機能回復をサポートする専門家です。それに対して、作業療法士は「指を動かす」「食事をする」「入浴をする」などの日常生活を送る上で必要な、応用的動作の獲得を支援する専門家になります。

そして、言語聴覚士は「話す」「聞く」などのコミュニケーション能力の回復や、食べ物をうまく飲み込めない嚥下(えんげ)障害の訓練を行います。

例えば、脳梗塞を発症して間もない時期で、「ベッドや車椅子から一人で立ち上がれない利用者」というケースで考えてみましょう。このような状況の方が先に行うことは、ベッドや椅子からの立ち上がり動作の訓練ではないでしょうか?

立ち上がり動作のリハビリでは、筋力の向上だけでなく、立ち上がるための身体の使い方の指導なども必要になります。こうしたケースでは、「座る」「立つ」などの基本的な動作獲得の専門家である理学療法士にリハビリをお願いするのがよいでしょう。

その一方で、立ったり歩いたりといった基本的な動きはできるけれども、箸を使って食事をする、化粧をするといった細かい動作ができないような場合には、作業療法士にリハビリを依頼します。

このように、リハビリの専門職(理学療法士や作業療法士)の強みなどを把握することで利用者の目的にあった専門家を絞ることができます。

リハビリの専門家が所属する事業所を調べる

利用者の目的に合ったリハビリの専門家を3職種から選択した後、次に家族が行うのは「訪問リハビリ事業所選び」になります。

訪問リハビリを利用する際には、ケアマネージャーを通して訪問リハビリ事業所にサービスの提供を依頼することになります。

そして、訪問リハビリのサービスを提供する事業所を探す際は、まず「その事業所に所属している専門職の人数」を確認しましょう。なぜなら、事業所によっては希望する専門職(理学療法士や作業療法士)が所属していない可能性があるからです。

特に言語聴覚士については、他の2職種(理学療法士と作業療法士)に比べると、リハビリの需要が少ないため、言語聴覚士が一人も所属していない訪問リハビリ事業所は多いです。

そのため、言語や嚥下(食べ物の飲み込み)の障がいをお持ちの利用者で、言語聴覚士のリハビリを希望するときは、連絡をした事業所に「言語聴覚士が所属しているのか」ということを先に確認してからサービスを依頼するようにしてください。

その他にも、事業所に問い合わせたときに「訪問リハビリのひと月の提供人数」を確認することも大切です。なぜなら、「施設内でのリハビリには力を入れているが、在宅でのリハビリには力を入れていない」という事業所が存在するからです。

そのため、事業所の開設から3年以上経っているにもかかわらず、ひと月の提供人数が10人を超えていないようであれば、その事業所へのリハビリサービスの依頼は見送った方がよいです。

以上、身体の障がいにあった訪問リハビリテーションの選び方についてご説明しました。

リハビリの目的とリハビリをお願いする専門家が決まった後に事業所を選定することになりますが、その事業所からどのようなスタッフが来るかはわかりません。知識や経験の豊富なスタッフ(理学療法士や作業療法士)が担当になってくれるかもしれませんし、経験の浅い方かもしれません。

そして、マンツーマンのサービスであるため、性格の相性の良し悪しも担当となる専門家を選ぶポイントになります。

利用し始めて、どうしても相性が合わなかった場合は、リハビリスタッフの変更はできますし、最終的には事業所自体も変えることができます。

実際には、サービスを利用してみなければ、依頼した事業所のリハビリサービスの良し悪しはわかりません。ただ、これまで説明したことを意識しながら事業所を探していけば、利用者の希望に沿ったリハビリのサービスは受けられますので、ぜひ実践してみてください。

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