認知症介護を続けていくとき介護者に必要な3つの考え方

自宅で親・配偶者の介護をすることだけでも大変な中、さらにその要介護者が認知症を患っていれば、支える家族の苦労はより大きくなります。

脳梗塞の後遺症によって半身マヒがある方への介護は、トイレや入浴、着替えなど本人のできない部分を手伝うことが中心になります。その一方で認知症の方の介護では、生活全般の手助けが必要になるのです。

また、認知症介護を続けていく中で、特に大変になる点として、「認知症の人が思いをうまく言葉で表現できなくなるため、相手の気持ちがわかりづらくなること」「介護者の指示や思いが伝わりにくくなること」などを挙げることができます。こうしたことからも認知症介護では、認知症の人自身はもちろんのこと介護する家族の心労が大きくなるのです。

このように認知症介護では、通常の介護とは違い「生活全般を支える」ことを重点に支援していく必要があります。

そこで今回は、「認知症介護を続けていくとき家族に必要な3つの考え方」について説明します。

認知症の知識をもつ

認知症介護を続けていく上で大切なことの1つ目は、認知症の正しい知識を得ることです。
昔に比べて、テレビなどで認知症をとりあげられることが増えたので、「認知症」という病気を知っている方は多いのではないでしょうか。しかし、認知症の症状や認知症介護の方法などを詳しく知っている人は少ないのが現状です。

認知症の悪化予防、早期発見につながる

例えば、認知症の人の生活環境を急に変えることで、認知症状が悪化することを「リロケーションダメージ」といいます。誰でも引っ越しなどで生活が変わると精神的に不安定になることがあるように、認知症の方も環境の変化が症状の悪化につながるのです。
また認知症の初期段階では、医師でもなかなか判断できない場合があります。ただ、症状だけでは判断しにくい時期でも、脳の萎縮(脳が小さくなる)状態が検査できる神経内科や脳神経外科を受診することで、早期発見できることがあるのです。

症状の軽減につながる

さらに、介護の上で「徘徊(歩き回る行為)」や「暴力行為」「夜間の不眠」などの症状に悩まされた時には、精神科や認知症専門医が在籍する病院を受診することが大切になります。認知症の診断は医師であれば何を専門にしていても行えますが、すべての医師が認知症に詳しいわけではありません。
つまり、「膝(ひざ)が痛い時には整形外科」に「歯が痛い時には歯科」へ行くように、認知症を疑った場合には認知症を専門にしている医師が在籍している病院を選ぶことが大切になります。そうすることで、症状を細かく診てもらうことができ、内服薬を調整することなどによって、症状を軽減させることが可能になるのです。

将来の不安を解消できる

認知症を患っている親や配偶者の介護では、先行きが見えないことに対して不安を抱えている家族が多くいます。この不安に対しても、認知症に関する情報を集め正しい知識を得ることで、解消することができるはずです。

例えば、「認知症の症状がどのような進行をたどるのか?」ということを知るだけでも、「これからどうやって介護していけばいいのか?」など対策を考えることができます。そうすることで、認知症の人を支える家族も自分の生活と照らし合わせながら将来のことまで計画を立てることができるのです。

このように、認知症に対して正しい知識を得ることで、症状を軽減することができたり、適切な治療を受けることができたりするだけでなく、認知症介護をしていく中での不安も解消できます。

こうしたことからも、まずは認知症のことを正しく知り、その知識を活用していくことがとても大切になります。

認知症の人を認める

認知症介護を続けていく上で大切なこと2つ目は、認知症の人を認めることです。

認知症は脳が委縮(脳が小さくなる)することで、物や人の名前を覚えることができなかったり、場所や時間を認識できなくなったりして、日常生活に必要な行為ができなくなります。さらに、認知症を完治させることは難しく、認知症を患った方の症状は徐々に進行していくのです。

つまり、認知症によって「今日は理解できていたことが明日にはわからなくなる」ということもあります。

さらに、認知症の人には、身体的に元気な方が多いため、介護する家族は「どうしてできないの!?」「なぜわからないの?」と思いがちです。

ただ、家族のそうした対応は、認知症の人を困惑させることになります。その結果、認知症の人と家族との信頼関係が崩れてしまい、認知症の人は言葉でうまく気持ちを伝えれないために「暴言」や「暴力」として表れてしまうことがあるのです。

こうしたことから認知症介護においては、「過去にこだわらずに、現在の認知症の人を認めること」が大切になります。

できることを認める

例えば、認知症の人に対しては、できない事を非難するのではなく、できることを認めることが大切です。

具体的には、「トイレの場所がわからなくなった」ということだけにとらわれず、「自分でトイレに行こうとする」や「自分で排泄動作(ズボンや下着を上げ下げする)ができる」という行動を認めるのです。

そうすることで、介護する家族もストレスを感じにくくなります。

できることを最大限生かす

また、認知症の人は相手の言葉を理解して、自分の思いを言葉にすることに時間がかかるようになります。そのため、家族も焦らずに待つことが必要になってくるのです。家族が焦らずに、はじめから認知症の人のペースに合わせることで、認知症の人も自分の力をしっかり発揮することができます。

そして、自分でできることを維持することは、結果的に家族の介護負担を減らすことにもつながります。

例えば、「洋服を着替えること」という行為でいうと、介護する家族がすべて介助してしまうのではなく「上着を着て」「ズボンを履いて」「靴下を履いて」など、1つ1つ手順を声掛けしながら、本人が行動に移していくように待つことが大切です。

確かに、家族が介助した時に比べて時間はかかるかもしれません。しかし、こうすることで、本人の「服を着替える」という力を保つことができます。

認知症の重度になっても、「手続き記憶」と呼ばれる記憶は保たれており、「無意識に体が覚えている行為」などは自分で行えることが分かっています。こうしたことからも、時間をかけてでも本人の力を最大限生かすことで、先々の介護の負担を減らすことができます。

このように、「今、目の前にいる認知症の親(または配偶者)を認めること」や「できない事ではなく、できる事を最大限生かすこと」で、介護をする家族の負担を減らすことができます。なにより、認知症の人が自信をもった生活を送ることにつながり、「親(または配偶者)らしさ」を保つことができるのです。

介護をひとりで抱え込まない

そして、認知症介護を続けていく上で大切になることの3つ目は、認知症の人の介護を、家族がひとりで抱え込まないことです。これは、認知症介護において最も重要になります。

認知症介護は24時間365日の介護が必要

以前は認知症という病気を知っている人も少なかったため「親が認知症になったことが恥ずかしい」と思われる風習がありました。しかし、昔と比べると、テレビなどでも認知症の情報が多く出ているおかげで「脳の病気が引き起こしているもの」であることが多くの人に正しく認識されてきています。

ただそうはいっても、まだまだ「親の介護は子供がするべきことである」という考え方は根強くあり、家族だけでなんとかしようとする方も多くいます。

しかし、認知症介護では「家族だけで介護をすることはとても危険なこと」なのです。

なぜなら認知症介護は、24時間365日の介護が必要になるからです。

身体的な介護と認知症介護では、家族が一緒に行動しなければならない時間に大きな違いがあります。

例えば、身体的な介護であれば「トイレに行くとき」や「着替えをするとき」などに介助を必要としますが、その他の時間は一人でも過ごすことができる方がほとんどです。一方で認知症の方は、一人では「今いる場所」も「これからするべきこと」も「ここにいてよいのか?」ということも分からない状態になるため、不安が大きくなります。

そのため、認知症が進行していくと、たとえ住み慣れた家であっても一人で過ごすことが難しくなるのです。

ただそうはいっても、家族だけでは24時間ずっと親(または配偶者)と一緒に過ごすことはできません。だからこそ、家族だけで抱え込まずに介護保険サービスを利用することが大切になるのです。

また、介護保険サービス以外にも「カメラやセンサーなどを利用した見守りサービス」や「地域の交流会への参加」などを利用する方法もあります。まずは、家族自身が介護していく中で、家族で「できること」と「できないこと」をきちんと知ることです。そして、介護できない自分を追い詰めずに、家族以外の人の力を借りていきましょう。

このように、家族自身も周りの人たちに支えてもらうことで、長く認知症介護を続けることができるのです。「ホッと一息、気を抜く場所」や「話を聞いてもらえる場所」が大切になります。

お住まいの地域にある「地域包括支援センター」は、認知症のことはもちろん介護や介護保険についても相談できる公的な機関です。他にも、認知症の家族を支える機関としては「公益社団法人認知症の人と家族の会」などもあります。

周りの人との交流が大切

さらに、認知症の人にとっても初期の段階からさまざまな人と交流しながら馴染みの関係を築いておくことが大切です。

認知症が進行していくと、初対面の人に対しての対応能力も低下していきます。だからこそ、初期の段階から重度になった時の介護も意識して、さまざまな人と協力しながら介護していくことをおすすめします。

例えば、日々の介護を手助けしてくれる介護スタッフはもちろんのこと、かかりつけ医も早い段階から関わってもらうことで、症状の変化を診てもらうことが可能です。同じように、地域の人にも認知症を患っていることを知ってもらうことで、いざという時に助けてもらえる関係を築きやすくなります。

このように、認知症介護を家族が行う場合は、家族だけで介護の全てを抱え込まずに周りの人の力を借りながら行っていくことが重要です。なによりも、家族が不安やストレスを抱えたまま介護をしていると、人の感情に敏感な認知症の人へも悪い影響を与えてしまうことになります。そうならないように「自分の時間を確保する」「なんでも相談できる場所を作る」ことが大切になるのです。

「認知症の親(または配偶者)と共に生活する」と決めることは、誰にでもできる決意ではありません。介護をする家族自身が力み過ぎずに、BestではなくBetterを目指して介護をすることが、認知症介護の一番のコツといえます。

ぜひ今回の「認知症介護を続けていくとき介護者に必要な3つの考え方」を参考にして、楽しんで認知症介護をしてみて下さい。そして、もし困った時や悩んだ時は、迷わず認知症に関して専門知識をもった人に相談することをおすすめします。

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